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10月21日、ロココの時代のトラジェディ・リリクに感慨... ラモーの『ゾロアストル』初演版...

アレクシス・コセンコ率いる、レザンバサドゥール-レ・グランデキュリーの演奏、ナミュール室内合唱団、レイナウト・ファン・メヘレン(オートコントル)のタイトル・ロールで、ラモーのオペラ『ゾロアストル』。

1734年、50歳、『イポリートとアリシ』(新たなトラジェディ・リリクとして賛否を呼んだ!)でのオペラ・デビュー以来、オペラ作家として、パリの音楽シーンを沸かせてきたラモー(1683-1764)が、1749年、パリ、オペラ座で初演したトラジェディ・リリク『ゾロアストル』... それまで、ロココの気分を反映したライトなオペラ・バレでパリっ子たちを楽しませていたラモーが、10年ぶりにフランスにおけるバロックを象徴する抒情悲劇=トラジェディ・リリクへと帰って来た作品... だったが、時代はブフォン論争(1752-54)前夜、シーンは、すでに、重々しい悲劇ではなくなっていた。

そう、成功には至らなかった『ゾロアストル』。成功には至らなかったけれど、今、その音楽をつぶさに聴けば、古いスタイル(バロック)を如何に同時代(ロココ)の中に落とし込もうか、ラモーの挑戦が感じられ... オペラ・バレで培ったダンス・シーンをふんだんに盛り込み、下手にエモくせず、流麗なエールで彩り、ラモーのそれまでの経験の蓄積から生まれる洗練が磨きを掛け、古典主義の到来を予感させる端正さ、響き出すよう。そこに、リュリに始まったトラジェディ・リリクのひとつの帰結を見出す思い。

という、『ゾロアストル』(1749年版)を聴かせてくれたコセンコ+レザンバサドゥール-レ・グランデキュリー(かつてマルゴワールが率いたレ・グランデキュリーが、レザンバサドゥールと合体していた!)。洗練を極めるトラジェディ・リリクを、丁寧に、美しく響かせ... ドラマが煮え立つところでは、しっかりギアが入り、盛り上げる!で、ナミュール室内合唱団が、堂々にして色彩に溢れるハーモニーを織り成し、さらに盛り上げる!

そして、歌手陣... 注目のデヴォス(ソプラノ)に、大御所、ジャンス(ソプラノ)ら、確かなメンバーが揃い、美しいだけでないドラマもしっかりと紡がれる。という中、タイトル・ロールを歌うメヘレン(オートコントル)に耳が奪われる!いや、フランスものと言えば、この人... そのオートコントルならではの無垢さ、ラモーのオペラの醍醐味!惹き込まれる。

さて、『ゾロアストル』は、ブフォン論争を経て、改訂、1756年に再演される。その改訂版は、疾風怒濤の到来を予感させるドラマティックさを新たに纏い、大成功!となると、初演版は劣るのか?いやいやいや... というより、リュリ以来のトラジェディ・リリクの帰結としての初演版があり、新たなトラジェディ・リリクの出発としての改訂版があるのだなと... 初演版を聴いて、感慨を覚える。


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