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小田急線のヒーロー

10分くらいのショートアニメ用シナリオの習作(2015年)。とりあえず、かわいい女の子を描きたかった。

 人 物
二宮浩輔(25) 新人声優
風樹春乃(16) 女子高生
後光戦士ライジンガー
特撮制作会社のディレクター
女子高生1
女子高生2
女子高生3
アフロヘアーの男

○小田急海老名駅・上り電車ホーム(夕)
各駅停車がホームに進入し、停車。

○停止している小田急線・中(夕)
アフロヘアーの若い男が乗ってくる。耳のイヤホンからは音漏れが激しい。
ドアの前に立ち、曲に合わせ踊るように肩や首を振る。
電車が動き出す。周囲の客、アフロ男を迷惑そうに睨む。
運転室前に寄りかかり「一流の心得」という本を読んでいた二宮浩輔(25)、本を下ろし、アフロ男を見る。
ノリノリで首を振るアフロ男に何者かが接近し、耳のイヤホンを容赦なく引き抜く。驚いて目をあけるアフロ。
イヤホンを握る風樹春乃(16)が立っている。高校の制服に黒髪、目つきの鋭い少女。
春乃「音量、下げていただけますか」
アフロ男「……あ。あは、さ、さーせー」
アフロ、イヤホンを取ろうと手を出すが、
春乃「音量を下げたらお返しします」
アフロ、不満そうな顔。スマホを取り出し音量を下げる。
スーツ姿の中年の男が、座席で足を広げて寝ている。春乃、その肩を叩く。男、目を覚ます。
春乃「ここ、つめれば一人座れます」
男、慌てて横につめ、席を空ける。
春乃、後方車両の方へ歩いていく。床に大きなカバン置く男子高校生に、
春乃「カバンは網棚」
二宮、興味深げにその後姿を見つめる。
春乃、優先席前で通話している女性の肩を叩き、天井を指差す。
車内のアナウンス「車内での通話はお控えください」
そんな春乃のポケットからは、ストラップがはみだしている。
特撮ヒーロー・後光戦士ライジンガーのマスコット。
二宮「あ」

○小田急新宿駅 俯瞰(夜)
小田急線が行き交っている。

○アフレコスタジオ・中(夜)
二宮が「後光戦士ライジンガー」と表題の書かれた台本を見ながらマイクに向かっている。
二宮「がんばれライジンガー!僕は君を」
スタジオのモニターには、ロボット型のキャラクター、ビリ太が映っている。
二宮「ヒーローを、応援してるよ!」
モニターのライジンガーが答える。
ライジンガー「ありがとう、ビリ太!」
ディレクターの声「ノンノン!」
二宮、ガラス越しにディレクターのほうを見る。ディレクター、不満げに、
ディレクター「二宮くんー。気持ちが入ってないよキモチが!それ本当にライジンガー応援してる?」
二宮「……そのつもりです」
ディレクター「ビリ太がネットでなんて呼ばれてるか、知ってるかい?大根ロボだよ!大根ロボ!ナンッセンス!ビリ太を演じる気がないでしょ君ィ!新人だからって、いつまでも甘えてんじゃないよ、まったく!」
二宮「……すみません」
二宮、うつむく。

○小田急厚木駅・上り電車ホーム(夕)
厚木駅の看板。電車が停止する音。

○停止している小田急線・中(夕)
運転室の前で「思いを伝える!演技の基礎」という本を読んでいる二宮。
ドアが開く音と同時に、本を下ろす。
少し離れた扉から春乃が乗ってくる。
数人の男子高校生が、優先席付近の床にあぐらをかいて座っている。
春乃、彼らのほうへ向かう。
二宮、その後姿を目で懸命に追う。
女子高生1の声「ね、あれ風樹ウザ乃じゃね?」
二宮、3人の女子高生を見る。春乃と同じ制服だがスカートは短く、茶髪。
女子高生2「うわっ、マジだ。ありえねー」
春乃に何か言われ、不満そうに立ち上がる男子高校生たち。それを見ながら、
女子高生3「電車ン中でもアレかよ。ガチ風紀委員。うざすぎ」
女子高生2「あーし今日の選択授業ウザ乃と同じでぇ、授業ンときツムツムしてたら「没収です」ってスマホ取られてぇ。席離れてんのにわざわざ立ち上がってくるとかなくね?」
女子高生1・3「ないわー!」
女子高生1「アイツほんと何様だし」
女子高生3「死んでくんないかなー」
二宮、戸惑い目を泳がせる。
春乃、女子高生たちの方を向き睨む。
女子高生1「やば。聞こえたかな?」
女子高生3「別にいいし、聞こえても」
けらけらと笑う女子高生たち。
春乃、背を向け歩いていく。
ポケットのライジンガーマスコットをきゅっと握りしめる。
二宮、心配そうに春乃の背中を見る。
春乃、車内に立っていた老人に詰め寄る。何か話すと、老人を優先席まで案内して座らせる。
老人、春乃に笑顔で会釈を繰り返す。春乃も微笑んでいる。
二宮、ほっとしたように微笑む。

○小田急・相模大野駅(夕)
ホームに各駅停車が進入してくる。

○停止している小田急線・中(夕)
扉が開き、春乃が降りようとしたとき、乗ってくる男性とぶつかってしまう。
ライジンガーマスコットが男性のカバンにひっかかり鎖が壊れ、床に落下。
二宮、ハッとした表情。
春乃、ぶつかってきた男性に対し忠告。
春乃「降りる人が先ですよ」
そのまま電車を降りる。
二宮、追いかけようと車内を走る。
マスコットを拾う。同時に扉が閉まる。走ろうとした勢いが止まらず扉に激突。
走り出す電車。ドアの向こう、ホーム上の春乃が遠ざかっていく。
二宮「いてて……」
起き上がり、マスコットを見る。
ライジンガーは薄汚れている。

○コンビニ(夜)
コンビニの制服姿の二宮、レジ内に座りこむ。
ライジンガーマスコットを布で磨いている。
ダンボール箱を開ける。中にはペットボトルのオマケ、袋詰めのストラップが大量に入っている。
二宮「お。……あった」
箱から何かを取り出し、微笑む。

○小田急・厚木駅(夕)
厚木駅の看板。電車が停止する音。

○停止している小田急線・中(夕)
二宮、ポケットに手をいれて扉の前に立つ。扉が開いて乗客が乗ってくる。
乗客の中に春乃の姿はない。
二宮、外を見て、目を見開く。
ホーム上、春乃が走り回っている。

○小田急・厚木駅・上り電車ホーム(夕)
春乃、ホーム上を走り、キョロキョロと何かを探している。
ベンチの下を覗きこみ、ため息をつくと、ゆっくりと起き上がる。
風に吹かれる春乃の後姿。
春乃の頬から、ポロ、ポロ、と涙。
涙が止まらず、泣きじゃくる。
二宮の声「あの」
春乃、驚いて振り返る。
二宮が立っている。泣き顔に驚く二宮。
二宮の手のひらにはライジンガーストラップ。ビリ太のマスコットも一緒についている。
春乃「(小さな声で)あ……!」
二宮「これ、昨日電車で拾って……」
春乃、ストラップをそっと受け取る。
大事そうに胸の前で抱える。
二宮、ほっとしたように微笑む。
が、春乃、途端にキッと鋭い目つき。
二宮、たじろぐ。
春乃「普通は遺失物として駅に届けるべきじゃありませんか!?」
二宮「あ。そ、そか。……ごめん」
春乃、鼻水をすすり、二宮を睨む。
手を開いてストラップを見る。
ライジンガーの隣でビリ太が笑う。
春乃「……ビリ太、嫌いなんですけど」
二宮「えっ」
春乃「だって大根ですし」
がっくりと首を落とす二宮。
春乃「これは私のじゃないので、お返しします」
春乃、ビリ太を外そうとする。
二宮、その姿を見て少し考えて。
二宮「(ビリ太の声で)僕は君を!」
春乃、驚いて手を止め、二宮を見る。
照れたように笑う二宮。
二宮「ヒーローを、応援してるよ」
春乃「…………」
春乃、目を泳がせる。
ストラップをぎゅっと握る。
春乃、丁寧にお辞儀し、走り去る。
二宮、その背中を見ながらつぶやく。
二宮「がんばれ、ヒーロー」

【了】

Photo : ©clearether

いただいたご支援は、今後の更なる創作活動のために活用したいと思っています。アプリゲーム作ったり、アニメ作ったり、夢があるの!(>ェ<)