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フラワー・ガーデン

10分くらいのショートアニメの習作。大好きな森薫先生の影響を受け過ぎてます。

   人 物
フラウ・フォード(18)フォード家の養女
ミハエル・ルベド(23)ルベド家の御曹司
モニカ(23)ミハエルの恋人
エリック・ライト(23)ミハエルの友人
エレナ・フォード(40)フラウの義母
フォード家の侍女
フォード家のハウスメイド

○ルベド邸・庭園
風の吹く音。白いバラが咲いている。
無数の花が咲く手入れされた庭園。
みすぼらしい姿のフラウ(8)、庭と道を隔てる柵をよじ登る。
庭に着地し、走り出す。
小さな噴水。フラウが走ってくる。
フラウ、恍惚とした表情で、赤い屋根の大きな家を見上げる。
最上階、大きな窓の向こうで、バイオリンを弾いている少年の姿が見える。
風が強く吹き、フラウの金色の髪がなびく。花々も大きく揺れる。

○イギリス・ロンドン俯瞰(夜)

○同・ロンドン橋(夜)
複数の馬車や人が行き交う。
T・19世紀イギリス

○同・夜会会場(夜)
きらびやかなシャンデリアの下、正装した男女たちがダンスを踊っている。

○同・ソファスペース(夜)
カーテンの前、フォード家の侍女があたりを見回している。
エレナ・フォード(40)がカーテン奥から侍女に歩み寄り、小声で。
エレナ「フラウは見つかったの?」
侍女「奥様。いいえ、まだ」
エレナ「まったく、貴女がついていながら」
侍女「申し訳ございません」
エレナ「夜会に連れてくるにはまだ早かったわね。所詮は元庶民だわ。ちょっと文才があるからって目をかけて甘やかしすぎたのかしらね」
エレナ、侍女をキッと睨み、
エレナ「早く見つけなさい。養女とはいえフラウはフォード家のレディよ。何かやらかしたらうちの名に傷がつきますからね!」
侍女「か、かしこまりました!」
エレナ、鼻をならし、その場を去る。

○同・ホール内(夜)
ミハエル・ルベド(23)、エリック・ライト(23)と2人の若い紳士が集まっている。
紳士1「しっかしやたら多いなぁ。何人呼んだんだよ、ミハエル?」
ミハエル、少し困ったように笑い、
ミハエル「はは……僕も、こんなに来てくれるなんて思わなかったよ」
横目で壁の柱時計を見る。柱時計は9時すぎを示している。
エリック「お父上もお喜びだろう。あの不良息子がこんな立派な夜会を催すなんてさ」
紳士2「最近やたらと真面目じゃないか。何かあったのか?」
ミハエル、紳士たちの方に視線を戻し、
ミハエル「……別に、なんでもないさ。親の期待に応えるのは当然のことだろ」
エリック、何かに気づく。
エリック「……なぁ、ミハエル。あのレディは、お前の知り合いか?」
ミハエル「え?」
美しいドレスに身を包んだフラウ・フォード(18)が、少し離れた場所に立っている。
フラウ、ミハエルと目があうと、恥ずかしそうに目をそらす。
ミハエル、少し笑んで、
ミハエル「知らないな。そろそろ他の方々に挨拶してくるよ。楽しんでいってくれ」
ミハエル、その場を去っていく。
フラウ、ミハエルを追おうと動く。そこにエリックが歩み寄ってきて、
エリック「失礼レディ。彼に何か御用でも」
フラウ「あ……いえ」
エリック「私はエリック・ライトです。彼とは十年来の親友ですから、よかったらご紹介しますが」
フラウ「……お心遣い感謝します。私は、フラウ・フォード、です」
エリック「え?まさか……あの『フラワー・ガーデン』をお書きになったミス・フォード?」
フラウ「あ、はい」
エリック、満面の笑みで
エリック「ブラボー!お会いできて光栄です!あなたの小説、全て拝読しました!」
フラウ「あ、ありがとうぞんじます」
エリック「ミハエルのやつ惜しいことを!彼、あなたの大ファンなんですよ」
フラウ「えっ……!?」
エリック「フラワー・ガーデンなんて、何十回と読み返したとか。あの話に出てくる赤い屋根の家が自分んちみたいだとか、自分もあんなふうに想われてみたいとか……」
フラウ、ドレスの裾を持って走り出す。
エリック「あ、ミス!?」

○同・廊下(夜)
赤い絨毯が敷かれた廊下。人気はない。
ミハエル、足早に廊下を歩く。
ホールのほうからフラウが出てくる。
あたりを見回し、ミハエルを見つけ、追いかける。
ミハエル、角部屋のドアを開けて入る。ドアがしまる。
フラウ、ドアの前に立つ。
ノックしようと手の甲をあげると、扉の向こうからミハエルの声。
ミハエルの声「ごめん、待たせてしまって」
フラウの手が止まる。

○同・角部屋内(夜)
暖炉やソファのある個室内。バルコニーは開放されていて、カーテンが大きく風にたなびいている。
ドアが薄く開いて、フラウが中を覗き込む。風で前髪がなびく。
フラウ、はっと驚いた顔をする。
バルコニーで、ミハエルとみすぼらしい姿のモニカ(23)が抱き合っている。
硬直し、息を呑むフラウ。
モニカ「本当に大丈夫なの?」
ミハエル「ああ。これだけ人がいれば、僕がいなくなっても誰も気づかない」
モニカ「でも、明日には大騒ぎになってしまうわ。あなたのお家の名誉が……」
ミハエル「家のことはいいんだ」
モニカの手をぎゅっと握るミハエル。
ミハエル「もううんざりなんだよ。このまま親のいいなりになって、結婚も将来も決められるなんて、御免だ」
フラウの手がガタガタと震えている。
ミハエル「モニカ、君の故郷の村に行こう。そこでずっと、自由に暮らすんだ」
フラウ「待って!」
ミハエル、モニカ、ドアをの方を見る。
フラウが部屋の中に立っている。
ミハエル、フラウを睨む。
ミハエル「君は誰だ。いつからそこにいた」
フラウ、目に涙をためて、
フラウ「行かないで、お願い!」
モニカ、ミハエルの袖をつかむ。
ミハエル「……ここで見聞きしたことはすべて忘れてくれ。頼む」
立ち尽くすフラウ。
ミハエル「行こう、モニカ」
フラウ「駄目!」
ミハエル、フラウを煩わしそうに睨む。
フラウ、ぼろぼろと泣いている。
フラウ「駄目よ……。どうして……!?私、あなたの傍に行くために、いままでずっと!ずっと!努力してここまできたのに!」
困惑の表情を浮かべるモニカ。
フラウ「なんで……アンタみたいな子が!」
走り出すフラウ。
モニカとミハエルを引き離そうとする。
フラウ「離れて!彼を連れて行かないで!」
ミハエルがフラウを突き飛ばす。
床に倒れこむフラウ。
ミハエル「モニカ、行こう」
バルコニーを乗り越えるミハエル。
モニカ、フラウをじっと見ている。
ミハエル「モニカ」
ゆっくりと起き上がるフラウ。
モニカもその場を去る。
じゅうたんにフラウの涙が落ちる。
すすり泣くフラウ。
カーテンが風になびき続ける。

○フォード家・外観(朝)
鳥の声が響いている。

○同・エレナの寝室(朝)
メイドがカーテンを開けている。
エレナ、ベッドで紅茶を飲みながら、新聞を読んでいる。
エレナ「……ルベド家の坊ちゃま、本当に気の毒よねぇ。あなた、どう思う?」
メイド「そうですね、お可哀相だと……」
エレナ「そうよね。ルベド卿もやりすぎだわ。何もアメリカ送りにしなくたって、ねぇ」
メイド「一緒に駆け落ちしようとした恋人は、どうなったのでしょうか」
エレナ「さぁね。庶民のことは知らないわ。ま、ルベド卿は徹底的に絞るおつもりでしょうけど」
新聞をたたんで脇に置くエレナ。
エレナ「庶民といえば、うちのレディは?まだ部屋に篭っているのかしら」
メイド「……ええ。一昨日からずっと」
エレナ「そう。また小説でも書いているんでしょう。大作が出来る予兆なら、それでいいけれど」
エレナ、紅茶をすする。

○同・フラウの部屋(朝)
カーテンが締め切られ、薄暗い部屋。
ランプが灯る机に座り、呆然とするフラウ。
机の上にはこぼれたインクと、『フラワー・ガーデン』の本がビリビリに破られている。

【了】

Photo : ©clearether


いただいたご支援は、今後の更なる創作活動のために活用したいと思っています。アプリゲーム作ったり、アニメ作ったり、夢があるの!(>ェ<)