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『ふたりでおかしな休日を』の“リアル”な同性愛者像がすごい

 ゲイカップルの日常を描きつつ、お菓子を作る漫画です。2021年に連載開始。

ふたりでおかしな休日を
伊藤正臣

不動産業を営む山村俊光と介護士の椿坂権太は一緒に暮らすカップル。お菓子作りが趣味の山村と甘いものが大好きな権太の楽しみは、ふたりで過ごすおうちカフェ。そんな彼らの微笑ましい日常と手作りお菓子をめぐる物語。

https://viewer.heros-web.com/episode/3269754496401270271 より

 作者の人は特に自身の性的指向などを明示していないようですが、下記リンク先インタビュー記事のように同性パートナーと同棲していることは公開しているようです。

 この『ふたりでおかしな休日を』なのですが、私は正直最初あまり好きではありませんでした。というのも、妙にギスギスした漫画であり、ゲイ男性による女性差別や、ゲイ男性同士の恨みつらみといったことが、コメディとして描かれていたように思います。

 ゲイ男性による女性差別や、ゲイ男性同士のいざこざも、リアルと言えばリアルです。ただ、世の中には創作表現には不向きなリアルというのが存在したりするものです。「リアルだからって何でも作品の良さになるわけじゃないんだよ」という理由もあって、私は『付き合ってあげてもいいかな』も支持しておりません。

 ただ、『ふたりでおかしな休日を』に関しては、途中から軌道修正したような印象を私は受けています。主人公は最初ノンポリなゲイ男性像で同僚のアライ女性を煙たがってるという設定でしたが、その態度も気がつけばすっかり軟化し、ややオープン気味な性的マイノリティーへと変化しました。

 象徴的なのは、あれだけ日陰志向だったゲイ男性である主人公が、第40話でパレードに参加したことでしょう。

 『ふたりでおかしな休日を』は第42話で同性婚訴訟も描いていますが、パレードの回に続いて作者自身で取材を行っているので、いずれもリアルな視点で描かれています。今まで当事者が描いた漫画はけっこうありましたが、こういった取材を行って、そしてそれを反映させて描いている漫画は非常に珍しいと感じます。

 例えば、42話の同性婚訴訟は「異議あり!みたいなのは特になくて淡々と進みましたねー」というセリフと共に「じみ~…」と書かれています。おそらくこれは、取材の時に感じた“意外”の感情を表現したのでしょうし、実際に傍聴していない人間からは出てこないものでしょう。

 この記事を書いている時点で無料公開が終わってしまい単行本にも収録されていない第40話のパレードでは、実際の参加者側から見た風景が描かれており、こういったリアルさは取材の賜物であると思います。

 『ふたりでおかしな休日を』はそういった回でもきちんと調理描写もこなしており、当たり前ながらもしっかりしているなと感心いたします。

 さて。『ふたりでおかしな休日を』にはレズビアン女性も少ないながら登場します。2巻収録の第18話がそうなのですが、さすがに作者の人もレズビアンとなるとそこまで自信がないのか、完全に第三者視点の“アライ”として描写されます。こういったのもけっこう希少ではあるように感じます。

 4巻収録の第36話にも登場しました。こちらはレズビアンカップルの将来設計にまで話が進んで…といった感じでした。

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