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俺たちに明日はあるか続編

お父ちゃんは、養子に行った後、本当に真面目になって働いていた。
奥さんの、お父さんと一緒になって畑仕事を手伝い。
田植えから、稲刈り、草刈りまでこなす。
奥さんの、お母さんの介護も手伝っているのだ。
にわかには、信じがたい光景だ。

でも、そこはうちのお父ちゃんだ。
ほとぼりが覚めた頃、不良仲間とバンド活動を再開した。

いつも、みんなが、乗っている車は軽トラだ。
軽トラに乗って現れた、ビジュアル系を目指していると言っていた。
やっぱり化粧の力でも借りないと、若者の美形には勝てないと思っているらしい。

「そんなの、田舎のキャンプ場で映えるのかな?
それは、やっぱり都会のライブハウスだろ。」と、つくっこみを入れたかったが、
止めといた。おじんバンドにアドバイスはいらない。

いつものバンドの練習の音が止んだので、農業小屋をのぞいてみた。
「おい、これ、どう使うんだ。」
「ビューラーかあ、まつ毛を逆立てるやつだ。目がぱっちりするらしい。」

「マジかよ。お目目ぱっちりの二重の男前になってみたいよ。」
「そこの本をまじめに読んで、やってみたら。」

「おい、その口紅、俺にも貸してくれや。」
「あかん、あかん。これは、おかぁちゃんのところからこそっそり持ってきた、ブランド物の口紅や。わからんようにまた、戻さなあかん。」

俺は、えらい物を見たと思って、こっそりドアを閉めた。
ノンアルでも飲んで、乾きもんでも食べてると思ったら、
ええ、おっさんらがメイクレッスンって図柄は、キモイにも程がある。






「やっぱりなぁ。お父ちゃんが、真面目になれるわけない。」
「あほ。バンド活動は、真面目な活動や。」

「お父ちゃん、僕が歌詞を書くから、曲をつけてよ。」
「誰が、歌うんだよ。」

「ひよこの、ぴよこちゃん。」
「あほ、人間様にしろ。それに、とびきり可愛い子がいいな。」
「じゃ、ゆみちゃん。」

「そんな可愛い子この辺にいたかな?」
「いるいる。」

俺の野菜集積所での仕事は順調だ。
野菜クズでの生活は、俺の食生活を潤してくれている。
おばあちゃん達に教えて貰う、野菜料理は健康的で、しかも美味い。
ほうれん草のお浸し、ごぼうや蓮根のきんぴら。
ぴよこちゃんの産んだ卵で、卵丼を作っても美味しいのだ。

お米は、父ちゃんが格安でわけてくれる。
なんで、タダじゃないんだと思いながら、バイト代で払う。
父ちゃんの部屋には、父ちゃんが来ていたレトロな服も残っているし、本もある。
うちのおばあちゃんも元気で、小さな畑の草むしりに余念がない。

「ジャーン、この服どう?」
俺はお父ちゃんの昔着ていた服を着て、ユキとトムの前に立った。
ぎゃはははははは。
二人とも笑い転げている。
「その、ワイドパンツの裾が袴みたいに余っているのはなんでや。」
「これは、ブーツを履くんや。足が短い訳じゃないよ。」

「その、仮面ライダーみたいなマフラーはなんや。」
「その写真を見てみ。お父ちゃんもしてる。」

二人は、お父ちゃんが持っていた昔のアイドルがにっこり笑っている、
明星と平凡を読みながら、煎餅を食べていたが、
お父ちゃんが、昔のアイドルみたいにカッコつけて、車の前でポーズを取っている写真に目をやって、笑い続けている。

「俺も、着たい。」
「俺も、このふりふりのブラウスを着て、パンタロンとやらを履いてみたい。」
「じゃら、じゃらネックレスをつけて、写真を撮ろうや。」

「髪型は、どうするねん。長髪やないとこの写真みたいになれへんで。」
「髪の毛は、作ろう。」
「えー、どうやって、。」
「毛糸や、毛糸で作るんや。」
と、昭和ごっこはエスカレートしていった。

続く
以前に書いていた話の続きです。
コメディが好きなので、随所に面白いを書いてみたいのですが、
努力だけは、、。





#大人のぬりえ #俺たちに明日はあるか#コメディ

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