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それなりに

彼はへんなところに鼻が効くようで
時折り 何かに連れられ
ふらっと姿を消すことがあった

一度 どこへ行っているのかと尋ねたことはあるが 終わりを迎える人間に近づき 
ただ 手招きをするだけだと言っていた 

変わった趣味だな と私は笑った

「それなりに」 と彼は言った


まあ 何か特別な事情でもあるのだろう  
 
人それぞれだ 人それぞれ と言ってやった


ある日 やり甲斐はあるのか と尋ねた

「それなりに」 と彼は言った

ある日 辛くはないのか と尋ねた 

「それなりに」 と彼は言った

ある日 いつか私にも と尋ねた

「それなりに…」 と彼は濁した 


馬鹿なヤツだな…
私に気を使うヤツがあるか
そんななりして  
優しすぎるのではないか とは言えなかった


私は分かっていた 
彼が初めて私の病室にやってきた日から  

身寄りのない私にはちょうど良かった
正直ひとりきりは心許なく
最期くらい誰かにいて欲しくなっていた


私は それなりに 生きて

それなりに 年老いた 

もうじきだろう

それなりに 最後がきて

それなりに 彼を迎えるのか 

それなりに…か 便利な言葉だ 

それなりに いいヤツだった

それなりに生きた私には ちょうど良かった  

それなりに ちょうどよかった



















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