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化心


ふと 何かに見られている
そんな空気が流れていることに気づき辺りを見渡した

向かいに生えている葉の無い木に目を向けた

か細い枝に留まる鳩が睨みつけるようにこちらを眺めていた

それに気づいた瞬間だった

鳩はこちらを見ながらこう言った

『お前は何のために生まれたんだ』
『お前は何を求めて生きているんだ』
『お前に私を救うことはできるのか?』

鳩は横向きのまま
感情の無い 形だけは愛くるしい丸い目で
責め立てるような言葉を投げかけてきた


「あっ…」

その言葉は静かに
こころの奥底まで沈んでいった

答えられる自信が無い
どうにも言葉が思い浮かばない

このままでは不安に押し潰されてしまう
焦りから咄嗟に口にした

「あなたは平和の象徴ではないのですか?」
「あなたの言葉はまるで灰色のようです」

素直な答えではなかった
それともこれが本性なのかと自分自身を疑ってしまった

少し間を置き聞こえてきた

『私達が星を手に入れたことも知らないのか?
それも知らずに口にするとは呆れてしまう』

『全てお前が作り上げた偶像だ』

そう言い放ち 木の枝を揺らすのと同時に
こちらに向かってものすごい速さで滑空してきた

「危ないっ?!」

思わず声を上げ 手を翳したが
何者の気配もなかった

恐る恐る顔をあげると
そこに鳩の姿はなかった


安心して胸に手を当てた

ぽっかりと穴が空いていることに気づいた

あぁ…

どうやら
戻っていったみたいだ



#こころのなか #こころのこえ #言葉 #平和の象徴 #迷い #化身 #掌編 #創作

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