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へっぴり虫


『誠に勝手ながら お邪魔させて頂いております』

彼は出会い頭にそう言った

『少しばかり戸が開いていたもので そこから』

少し戸惑ったが 害が無ければいいかと

その存在を 責め立てることはしなかった

「どうぞ、ごゆっくり」

ぼくは そう伝えた

他に言うこともない

それから 3日間

かれとは あいさつを交わすだけの距離感を保った

ただ単に それ以上の何かが必要とは思えないからだ

出会いから4日目の朝

それは 急に訪れた

いつものように かれの姿を探していた

日課になっていた あいさつをするためだ

しかし どこにも見当たらない

少しホッとした

でも くまなく探す ぼくもいた

特に親しい仲でもない

それ以上でも それ以下でもない

ただ あいさつを交わすだけ

ただ それだけのこと

でも 日課になっていた

そんなことを考えながらも 

かれを見つけることはできた

かれは きれいに足をたたみながら 

微動だにせず カーテンに隠れていた

「呆気ないもんだね…」

「ちょうどいい距離感だったよ……ねっ」

ぼくは 嬉しくも 悲しくも

感情をのせることもなく 

かれを窓のそとへ ふり放った

命の重さなど 微塵も感じさせないほどに

かれは軽やかに宙を舞い

ぼくの見えないところへ 消えていった

かれは ぼくに 日課をくれた

かれは ぼくの 一部になった


#こころのなか #こころのこえ #詩 #自由詩 #日常 #日課 #感謝 #命

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