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母の想い。

 息子が束の間実家に帰ってくる。久方の帰省だっていうのにあの子ったら。
 昔から学校から帰ったらランドセル放って遊びに飛んで行ったけど、三つ子の魂いつまで経っても変わらない。ビジネスバッグに変わっただけで「ただいま」の直後に出かけてく。
 誰に似たのかしらねえ。見たい親の顔はここにあるけど、ちっともあたしにゃ似ちゃいない。

 それでも今夜はここに戻ってくる。
 好物の唐揚げにシチューに青椒肉絲。ぜんぶ作った。
 だけど、夕飯用意しておくからね、は空まわり。伝える間もなくあの子は急いて出かけていっちゃった。それでも親だもの、無駄骨に終わろうとも事前の策は万全なのよ。

「晩飯、友達と食ってくるから」
 作り終えたあとに届いたLINEは、少し、残酷だったかな。

 それでも、あの子のために拵えたのだもの。浮かれて手料理、作ってる間は充実してたわよ。

 冷めていく料理を前にすりゃ、そりゃ寂しくもなるわよ。だけど、友達思いのあの子に不満のため息、意地でも見せてなるものか。
 こっそり冷蔵庫にしまっては、遅くなっても帰りを待つ。

 カチコチ。

 カチコチ。

 時計が刻む。

 そうやって、なかなか進まない時間が、立板にぶっかけた水のようにだらだらと流れてく。

 ……。
 まさかねえ、いつまでも子供と思っていたのに帰宅はなんと大の大人ぶった午前様。それでも、無事に帰ってきたことに安堵の「ほっ」。よもや不測のアクシデントに巻き込まれたのではと、やきもきしていた心配性のあたしがバカみたい。
 あの子も立派な大人だもの。いつまでも子離れできずにいるのは情けないと反省ひとしきり。

「話が盛り上がっちゃってさ。食うもの食わずの同窓会。楽しかったあ」

 え? 食ってないの?
「腹減ったあ。なんかある?」

 心配性が抜けきらぬ親の面目躍如の好機だった。食いもんならある。用意してある。あんたの好物ばかりだよ。即刻、腕の見せ所を温め直して並べたさ。

 かあちゃん、こんなに……作ってくれていたんだ。
 オレ……。ううん、なんでもない。
 あり……が……と、ね。

 なによ、あんたがぐすんかい。ぐすん、とくるのはこっちのほうだってのに。

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