あのお方の杞憂。
この時期になると決まって大規模な募集がかかる。募集を目にすると年末だなあと感慨深くなる。今年も余すところ1か月。最後の仕上げの1か月。
今年もたっぷり11か月の休養をとれたしなあ。
どれどれ、募集要項は、と。
ふむふむ、今年はこれまで今より1割ほどバイト料が高くなってるぞ。
働く者としてはありがたい話だが、物価はとうに1割以上高くなっている。行って来いにはちと足りないか。でも、ま、いいか。1年暮らしを保つのに過不足はなさそうだ。
それにしても今年のバイト代、値上げして大丈夫なのかなあ。予算は毎年決められているはずだからね。どんな背景があるのか、少し気になるところだね。
誰かが生活苦を訴えたから? まさか。生活に困っている人なんてこれまでひとりとていなかった。この世界に労働組合んてものは存在しないから、労組の働きかけであるわきゃないし。
ただ人員確保は十数年間来の課題だから、苦肉の策なのかもしれん。でも時給を上げたからといって人、集まるのかしらん。時給上げるのならその前にやらなきゃならんことがあるだろうに。とりあえず公募に切り替えてみるとか。経験者限定で狙い撃ちする募集じゃ、尻窄みになることくらいわかり切ってることなのに。
いずれにしてもアタシはやるよ。これしかやってこなかったからね。サンタクロースのアルバイト。
それにしてもだ。バイト代上げても予算が決まってるわけだから、どこかで帳尻合わせなくっちゃならないはずだ。皺寄せは贈り物の購入代金だろうなあ。それしかないもんなあ。餌代ケチればトナカイが不貞腐れるしなあ。メンテ代惜しめば、何かあったときに世論から糾弾されちゃうだろうし。
物価上昇に合わせオモチャも軒並み値を上げているから、となれば、実質、質の低下でまかなうということだわね。
子供達、大人の事情を押し付けられたプレゼントで喜んでくれるかなあ。子供に罪はないのにね。まったくもう、な気分になるよ。子供達に喜ばれなければ、この仕事をやる意味ないし。大人も子供もハッピーになれないクリスマスなんて、挫折した人生みたいなものなんだわさ。
社会の世知辛さは毎年増していくものだけど、今年はいちだんと酷そうだね。
それでも、ないよりましか、プレゼント。悩む。
仕事にもありつけることだし。働いてお金を稼がにゃ2024年の正月も無事迎えられないし。
足りない分は、気持ちを込めて、今年も駆け巡るぞ、世界の子供達に届けるために。
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独りごちながらもこのようにしてクリスマス・イブに備える世界のサンタクロースたちは、今年もバイト募集に応募する。おかげで今年も世界の子供達に、少しだけ質を落とされながらも贈り物が届けられることになる。
待っててね、子供達。
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