貴女は何を見ているの?
意中の人が気になる。まだ告白してはいないけど、このドギマギの意味を察してくれたら、もしかして。
気になる彼女をチラ見すりゃ、ありゃ、明後日の方向を向いている。
かつて乙女はもじもじ「の」の字。伏せた顔を赤くして、鈍たる男もそりゃ気がつくさ。男たるもの、そんな純情乙女をなぞるほど廃れちゃおらぬと我が道貫く一本木。心は錦で凛として、どんと構えて肚すえる。
どうだいこの男らしさ。堂々磊落、矢でも鉄砲でも持ってこいな気分。ついでの貴女も飛び込んどいでと、ついやましい本音がこぼれ出て、小心→傷心、そんな自分が情けない。
こんなにヤキモキしてるのに、彼女の横顔伺えば、なんと明日の方向を向いている。
ずどぉん。
この音、気になる? 大砲を打ったわけじゃない。寄せる思いの波打ち際、わかってくれてもよさそうなのに、いっこうに気にも留めない彼女に心が地底に落っこちた。その音。
「ねえ」
声をかけてみる。
「なあに?」
惚れたが陥る甘い罠。応える声の色もまた艶っぽい。
「い、いや、なんでも」
わかってくれよ、この、出したいのに出てこない、喉に詰まって出てこない言葉の意味するところ。
それでもだよ、彼女、今、僕を見つめてる。明後日の方向から明日の方向になって、今日、僕の目をとらえてる。
もしかしたら今日こそわかってもらえるか?
「目ヤニ、取ったほうがいいわよ」
ずどぉん、第二弾の炸裂だ。
なんたる失態、それにもまして、人のアラを見つけるその早技よ。痘痕を笑窪に見てくれぬ、そんな厳しい現実に僕は杭と化し、彼女の一撃で地中にめり込んだ。
道は遠い。
でも「それじゃ、また」と彼女は別れ際に言う。ということは、次がある。
「彼、告白してくれた?」家に帰ると妹が、なかなか発展しない姉の恋の行方に痺れを切らせて呆れてる。
「私のこと、好きじゃないのかも」
「の」の字を書けない現代乙女、描けないのは明るいヴィジョンもまた。発展しても牛歩の経済現状が、ファンタジーに浸れぬ乙女に仕立て上げ。
「でも、だいじょうぶ」約束してきたから次がある。彼女も明日に期待を寄せる。
現代社会は確認と忍耐の時代。愚かな夢見人は要らなくなった家電と一緒に断捨離よ。愚かな者にはなっちゃだめ。確かな一歩が踏み出せるまで、慎重に石橋を叩いて渡る。
ああ、焦ったい。恋はいったいどうなってしまうのか?
次週に続く。乞うご期待。
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かつて恋愛ドラマは進展しそうでしなさそで、同じところを行ったり来たり。ヤキモキばかりを募らせて、気持ちを最高潮まで高めたところで「来週またね」と尻切れとんぼ。
だけど、その恋は同じところにとどまっているように見えて、実は螺旋階段を昇っているんだよ。観ている者はわかっていて焦れてみたいのだ。その、切なく絞られる想いに、巻き込まれてみたいのだ。
現代は確認と忍耐の時代。効率化がまどろっこしい道筋を容赦なく叩き切っていく非情の世。認証過程でダメとなった潔く「あきらめましょう」と踵を返す。恋も仕事と同じで、伸るか反るかの大勝負。と思ってたまたまテレビを見ていたら、現代の恋愛ドラマも恋の揺れ方、昔と同じで行ったり来たり。
だいじょうぶ、とテレビに向かってアドバイス。その道筋は過去何度も観てきたからよく知っている。彼女は最初から君を見ているよ。
時代は変わっても、恋の道はあんまり変わっていなかった。
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