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あなた、本心語りすぎ。

 人は自分の言葉で自らを暴露する。

「私、口が達者なもので」
 髪を切られながら美容師さんと他愛のない会話をしていてこぼれた彼女の言葉。歳は40を少しまわったくらいだろうか。小柄ぽっちゃりで愛嬌のあるおばさんだ。そのおばさん美容師に、どのようにカットします? と訊かれて「目立ち始めた白髪を中心に」と返した直後、彼女は思考を目玉に変えてぐるりと巡らせたあと冷静沈着を装い、話すペースを落として「わかりました」と応えたのだった。
 それから冒頭の「私、口が達者なもので」に続く。

 はて、それのどこが口達者なのかわからなかったけれども、ツッコミどころに私は踏み入るのをやめた。

 口達者なら、わざわざそのことを公言したりはしない。宣言する前に相手を言葉でうちのめす。なのに彼女ったら。

 導き出せる真実は「たったひとつ!」。彼女は本当は口が達者ではない。きっと過去のトラウマが、口べたを擁護しようとして敷いた布石、好敵手を前に毛を逆立て自分を大きく見せようとする小心なおばさん猫、食われまいと身を膨らませるもともとふっくりんこのフグ。でなければ、少し意味は違ってくるけど、虎の威を借る狐。
 彼女は投じた撒菱で真実を悟られまいとした。
 なのに現実は残酷なものなのね。しっかり、こちらに真実が伝わっちゃった。

 人って、観察しているとおもしろい。わりと自分で自分の隠したがっているウィークポイントを、不用意にも自分の吐いた言葉で曝け出している。

 で、自らに言い聞かせる。気をつけよう、甘い言葉と暗い道、無理に自分を大きく見せようとせず、風に吹かれるまま人、モノ、コトに対峙する、さすれば『見透かされる』などという憂き目に遭うことなし。
 ま、もともと大したことしてきたわけじゃなし、気取るもガードを固めるもあったものじゃない身軽なアタシなのだけれどもね。

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