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婚活援助プログラム《素敵な人を》

『「はい」をタップすると、婚活援助の自動プログラムが起動します。これまでの婚活アプリと違って100パーセントの匿名性で運営されるわけではありませんが、プライバシーは法律に抵触しない限り完璧に護られております。ご安心ください。
 弊社が採用しておりますAIによる監視システムは、いわゆる援交もどきと風俗混同に一線を引く優れた最新技術であり、その他違法行為も含めてシステムを悪用された場合、もしくはその可能性が50パーセントを超えたと判断した時のみ、しかるべき機関に通知される仕組みになっており、それまでいっさい人の手は入らず、AIが運営してまいります。法律に抵触した行為、あるいはその可能性が半数に達した場合以外は個々人の情報はシステムのブラックボックスに収納されたままで、人は何人なんぴとたりとも内部情報ボックスの蓋を開けたり、中を覗き込んだり、取り出したりすることはできないようになっております。
 悪用を防ぐためアルゴリズムは非公開で不定期に更新し、運営の的確性を精査する目的でAIが自動的に適宜アンケートを実施し、運営に問題がないか監視するようになっています。婚活援助プログラムからアンケート依頼が届きましたら、お手数でもご回答いただきますようお願い申し上げます。
 その他必要条項については、お客さまの進行具合によって順次ご案内させていただきます。
 質問や不明点がございましたら、お気軽にお尋ねください。人的労働力に頼った旧態システムと違って弊社の最新システムは、電話口で待たされることも、回答が翌日に持ち越されるようなこともいっさいございません。ご質問を受けたら即答いたします。

 このたびは婚活援助プログラム《素敵な人を》をお選びいただきまして誠にありがとうございます』

「はい」をタップしてみた。これでプログラムが起動するはずだ。直後に『適合者を探すために、あなた様の情報を10パーセント利用させていただきますね』と、やけに馴れ馴れしく、それでいて掴み所のないレスポンスがプログラムから届いた。なんだか嫌な予感がした。開けてはならないブラックボックスを、わたしは開けてしまったのではなかろうか。

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 戸籍制度は税収制度の土台としてつくられたものだが、制度ができるまで人はわりかし自由にくっついたり離れたりしていたんだろうな、と当時の風土風潮を想像すると、おおらかだったであろう時代に夢が広がる。ま、現実というものはいつだって厳しいものではあるのだが、勝手な妄想だもの、イヤな部分は削ぎ落とし、甘い蜜だけすくって口に含んでもいいんじゃない? そんな歯が浮き、浮き足立つ現実離れの夢の時代と現代の管理戸籍事情とを比べると、現実が進行形でのしかかってくる現代の事情は重い。
 戸籍が管理され始めても、しばらくはバッファが幅を利かせていた。結びつくべき人を自力で見つけられなければ、血筋を重んじる家督の命や、隣の世話焼きおばさん、遠縁のお節介叔母さんが、出さなくてもいい口を機関銃の如く乱射して、やれ「この人はどうだ」「お似合いの人を知っている」と、無理矢理人をS極とN極に見立ててしまう。叶わぬならば「次」と、落ち着きどころに収まるまで、後方支援を牽引するその手をゆるめない。
 現代には、バッファがない。個々が立ち、温もりのつながりが断たれた。台頭してきたのが顔も性格も本当の名前も見えない仮想つながりだ。仮想だけあって、仮装も下層も入り混じり、カオスの体に手探りの歩を踏み出すことになる。
 玉石混淆と思っているのは、藁をも掴もうとする溺れゆく勘違い者。現実は、いい思いをしたい火遊び者や、あわよくば者、悪者が横行する“石”の烏合で、そこに“玉”を見い出すことなど、満員電車でシートに座れることほど非現実的なことなのだ。

 窪美澄氏の『夜に星を放つ』を読んだ。選ばれるだけあって、読み応えもあったし、たくさんほろりともさせられた。婚活アプリがたびたび登場した。ご本人、かの世界に飛び込んだのだろうな、と考えた。婚活アプリの噂や利用者をいくつか頭脳の狭い風呂敷に並べてみた。長々と書いてきたが、これは『夜に星を放つ』の読後文である。


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