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 擦過音を伴いながら、そのノイズは細い管を経由して、生きながらえるための養分を送り込んでくる。社会との接点は、延命の臍の緒。絶たれればたちまち絶命する。
 
 食べるのを止めた時、人は永遠の眠りに向かう。眠るのを止めても永遠の眠りはやってくる。それと同じように、社会との繋がりを絶っても永遠の眠りが迫ってくる。生き延びるための主要手段は天を支える支柱であり、どれひとつ欠かすことはできない遂行の絶対条件。不足はすなわち、死の影を背後に纏うことになる。機能不全に陥れば、生命維持の天井はたちまち崩れ落ちてくる。
 
 天の瓦礫で占められた平野では、もうどこにも行けない。閉じ込められる。蓋をされ、釘で打たれ、運ばれ、棺ごと焼かれて灰となる。
 
 社会をリタイアした人が、捕らわれたスズメみたいにとたんに死んでしまうのは、生きる支柱のひとつをわかっていなかったからだ。大人になると、臍の緒を切り離した赤子のようにはいかなくなる。人は母親との臍の緒から離れた直後から、社会との契りを結ぶ。そこに社会との臍の緒が出現する。
 
 なぜ、見えない?
 
 人の多くは世知辛い『忙』の社会を卒業すると、反動で『閑』の暮らしに目を向ける。『閑』自体は不活性細胞ではありえぬが、『忙』を捨てる時、一緒に臍の緒を捨ててしまうことがある。断てばすぐさま養分の酸欠状態に陥って逝く。
 多くの人は、臍の緒のことになど目を向けない。人は母親と縁で結ばれ臍の緒を切り落とした直後に、臍の緒のことなど忘れてしまう。
 
 忘れてはいけない。
 
 社会と繋がる緒には意味がある。

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