たとえば、才能がなければ小説家にはなれない。才能があってもその筋の人に発掘してもらえなければ、日の目を見ることはない。
たとえば、平和に暮らしたくても、隣国が声を荒げれば、おちおちしていられなくなる。安穏が、ギャップの向こうに遠ざかる。
人の生きる領域は決まっている。その陣地を壁が囲っていて、なかなか越えることはできない。
越えられぬなら、壊せばいいじゃない、と誰かが囁く。
壊せないよ、とぼくが返す。
やってみた? と訊かれる。
いいや、とぼくは首を振る。
ふうん。鼻で笑われる。
しばらくして風が1通の手紙を運んでくる。最初の壁は目に見えないんだよ、と書いてあった。
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