ファンタジー・カプセル。
「成せばなる、成さねばならぬ」というけれど、無理なものはどだい無理。ウサギのつく餅食べたくなって夜空に右手をかざしてみても、騙し絵みたいに月、捕まえたふうには撮れるけど、本当に取れたわけじゃない。
「月の餅は食べられないんだよ」と母さんは言う。
「なんで?」と訊くと、地球に着くまで消費期限が切れるから、だって。スーパーの売れ残りと一緒にするなんて、なんと夢のない話。
婆さんは「そうだねえ、食べてみたいねぇ」と子供の味方。「一緒になって取りに行こうか?」と誘っちゃみたが「そうだねえ、行ってみたいねえ」と大人の答え。長いものには巻かれろって言うものね、婆さんのはぐらかしじょうずに舌を巻く。
そんなこんなを繰り返し、僕は大きくなっていく。出会うもの、見るもの、聞くものに好奇の目。目は向くけど本音は実は別なんだ。ウサギの餅より、月見のダンゴ。
「父さん、月のウサギ餅、食べてみたいって思ったことある?」
父さんは腕を組み、渋い顔でひとうねり。それから「食えたものじゃなかったな」と。
え、あるの⁉︎
「嘘だあ」すかさず子供の薄っぺらなあざとさが露呈する。
「連れてってやろうか?」
担がれていることがわかった。だから「連れてって」と。「で、いつ?」
表情は意地悪ザネリのしたり顔だったに違いない。
すると父さん、呆れた顔で「なにか勘違いしてないか?」と僕に問う。
わけがわからず「なにが?」と問い返し。
「これは記録じゃない」
はいぃ↑っ?
「創作世界のフィクションは、なんでもあり。なにが起こっても不思議じゃない」
そう言って父さんはズボンのポケットから小さなカプセルを取り出して、景気良くぽんと蓋を開いてみせた。
「宇宙ロケットぉ」
あれ? 父さん、喋り方へん。それに今、ポケットから猫の耳みたいなものが落ちたけど。
僕たちは幾つになってもファンタジーを忘れない。
人生、楽しくやるが吉。
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