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思いはあたたかい。

 気遣いは、伝わらないかもしれない。それでも、いい事をしたら、それを見ている人がいる、かもしれない。見ている人がいれば、善業が小さなドミノ倒しのように広がって、世界に伝わる、ことがあるかもしれない。
 ただ世の常として、気遣いでしたことの大半は見過ごされてしまう。露見する案件は、痩せた店主の肉屋さんを見つけることほど難しい。

 見過ごされちまった気遣いは、誰知るでもなく、あたたかく、氷の寒風だけが振り返る
 見過ごされちまった気遣いは、たとえば氷柱をかじるセミ、季節違いの住処に糧はなく
 見過ごされちまった気遣いに、哀悼たむけて、後にして
 見過ごされちまった気遣いを、あとになって、気になりだして
 見過ごされちまった気遣いに、届かぬこの手を差し伸べる
 届かぬと思っていた見過ごされちまった気遣いは、遥か眼下でちろちろ灯り
 見過ごされちまってた気遣いは、諦めたころにやってきて、そっと掌中で火を灯す
 
 世界にはミニチュア級の気遣いがあふれている。空っ風が拐おうとしたって、ちょっとやそっとのことでは動じない気遣いは、はにかみ、ふだんはその身を見せることはない。でもいつだって、世界のどこかにいて、ちろちろ燃えている。
 暗く冷たく重く見える現実の表層は、その裏側であたたかみの炎にあぶられている。そのことに思いを馳せると、社会もまんざらではないことに気づく。

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