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すべてのはじまりのビール 六島麦のはじまり

なにもない、でも人を惹きつけるあたたかな島


人は何を求めて離島に行くのだろうか。
リゾート、非日常、豊かな自然……人によって島に求めるものはきっと様々だろう。

瀬戸内海には「癒し」、そして「ビール」を求めて人々が訪れる島がある。
笠岡港から定期旅客船で1時間10分。岡山県最南端の島「六島」。別名「灯台と水仙の島」とも呼ばれる人口60人の小さな島だ。

六島の光景

潮の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、民家の間を通り抜け、ザクザクと山道を登っていくと、高台に建つ灯台に出会う。島の人々が大切に守ってきた岡山最古の灯台。そしてその周りには推定10万本の水仙が自生しており、毎年冬になると甘い香りを漂わせながら咲き乱れる。

この島にはコンビニも居酒屋もない。街で耳にするようなガヤガヤとした生活音はもちろん、車の走る音すら聞こえない。
あるのは美しい海と豊かな自然。そしてあたたかな人と人とのつながりと古き良き文化。
「六島は人を惹きつける、そして人を癒す島だ」
島を訪れたことのある人は、六島のことをこう表現する。
都会の暮らしの中で、知らず知らずのうちにすり減ってしまった部分を優しく満たしてくれる、そんな力が六島にはあるのだと。

六島浜醸造所のはじまり

2019年、六島にブルワリーが設立された。
「六島浜醸造所」
豊かな自然の恵みや、島の文化をまるごと感じられるクラフトビールを醸造するブルワリーだ。
六島醸造所のホームページの下部には「人生迷ったら岡山最南端、六島醸造所においでやす」と小さな文字で書かれている。
これはブルワーである井関さんが六島に救われた実体験からの言葉だ。

朝の醸造所

大阪で食品会社の営業マンをしていた井関さんは、2016年に祖母の住む六島へと「孫ターン」した。
当時井関さんは大好きだった「食」を仕事にしたものの、その「食」が潰し合いや喧嘩の道具のように扱われることに対し違和感を感じ、苦しんでいた。
そんな時改めて自分のルーツである六島を訪れ、そのあたたかな魅力を再認識したという。
「人生に迷って六島を訪れた時、ここでなら面白く生きていけると思いました。人のかかわりや、昔から変わらない文化に触れることで生きる意味を見出せたんです」
井関さんはそう語る。
保障のある会社を続けるか、かたや何もないが宝物がたくさん転がっている場所を選ぶのか悩んだ結果「やりたいことをやろう」と井関さんは移住を決意したのだ。

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―自分の造っているビールが誰かの心に響き、迷っているだれかの、一歩を踏み出すための好奇心になれば
六島浜醸造所のビールには、こんな想いがこもっている。
だからだろうか。一口飲めば六島と同じく、心までも満たしてくれるような不思議な満足感を感じることができるのは。

サクラとビール

すべてのはじまりのビール「六島麦のはじまり」

そんな六島浜醸造所のはじまりのビールが「六島麦のはじまり」。セゾンスタイルのビールだ。
少し濃いめの黄色で、きめ細やかな泡立ち。
ホップのフルーティで華やかな香りが気持ちよく鼻孔を刺激する。
口に含むと甘いフルーツの香りと酸味がふわりと広がり、すうっと消えていく。後に残るのは麦の優しいあまみと旨味の感覚。キレよく、汗をかいた後にぐいっと飲みたい美しい味わいの一本だ。

六島麦のはじまりボトルつき


この「六島麦のはじまり」を飲むと、黄金色に輝く麦畑が瞼に浮かぶ。
それはきっと、このビールの持つ「はじまり」のストーリーが麦畑だからだろう。

六島に移住した井関さんは、かつて六島がてっぺんまで麦畑であったことを聞き、自身で麦畑を作ってみよう、そしてその麦を使ってビールを造ろうと決意した。六島に黄金色に輝く麦畑を復活させよう、そしてどうせならその麦で、皆がテンションがあがるビールを造ろうと。
このようにスタートした井関さんの麦畑プロジェクトは、その実すべてが手探りだった。
「人間の背丈以上ある雑草が生い茂る場所を開墾しました。それはもう波乱万丈でしたよ!麦の収穫もそれを麦芽にするための過程も。すべてが綱渡りで毎日ハラハラでした」

麦畑写真


なんとか収穫できたはじめての麦は、弟子入りした吉備土手下麦酒醸造所に持ち込み、そこで師匠と一緒にレシピを考えビールにした。そしてそのビールを自身が六島で開催したオクトーバーフェスでお披露目する。
当初、六島でビールを造れるとは誰も思っていなかったという。
しかしビールはできた。
井関さんの熱い想いや、ひたむきな姿勢はどんどん周囲に伝播していき、オクトーバーフェストには1日約200人、身内も入れるとトータルでのべ600人近くの人々が六島へと来島した。
普段は5~6人くらいしか歩いていない六島に、ビールを飲むためだけに集まってくれたたくさんの人々。井関さんはその光景を見ながら自分で初めて造ったビールを飲み、涙したという。

【要確認】オクトーバーフェスト


その時のビールが「六島麦のはじまり」。
今も当時のレシピで大切に造り続けられている、すべてのはじまりのビールだ。

いつの日か 島のものをアテに島で飲む一杯を夢見て

「六島麦のはじまり」には白身の魚がよくあう。
揚げたてのキスの天ぷらや、皮面をカリっと焼いたタラのムニエル。

六島は漁業の盛んな島だ。
島は海流がぶつかる場所にあり、海流速いため地の魚は脂がしっかりとのっていて、身の弾力は全く違うという。
キスにスズキ、マナガツオ。ボラでさえも骨まで美味しく食べられる。

波止場でのむひと

いつの日か。また何も気にせず離島を旅行できるようになった時には。
天下一品といわれる六島の魚をアテに、六島麦のはじまりを飲みに六島へ行ってみたい。

あたたかな島の人々と、彼らが作る文化。
そしてすべての「はじまりのビール」

あなたの「はじまり」の物語も、そこには待っているかもしれない。

文 : 小林加苗

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