見出し画像

強い苦みのインパクトから穏やかな味わいへ 父と子とをつなぐ「UNITE」

初めて見た父の「外の姿」


初めて父とサシで飲んだのは、地元の小さなスナックでだった。
それはしばらくぶりに帰省した夏で、わたしの手土産のお酒をたらふく飲んで、でも飲み足りなくて、ふたりでふらつきながら飲みに出かけた。
日中の暑さを引きずった、でも柔らかな夏の夜。

本当は情に厚くて家族のだれよりも涙もろいのに、オラオラとした口調ですぐに虚勢を張る頑固者の父。
父とわたしは似た者同士で、小さなころから口を開けば喧嘩をしていた。一言でいってしまえば相性が悪かったのだ。そのせいかわたしの反抗期はやたらに長くて、ほとんど口もきかないままに家を出た。18歳の時だ。
そこから約10年以上。30歳を越えて、やっと父と会話をするということができるようになってきたあの日、わたしたちはふたりで飲みに出かけたのだった。

画像6

スナックでの父は、それはもうハチャメチャだった。酔っぱらって、その場にいた店員さん、そしてお客さん全員にビールを奢った。
「お前ら好きなだけ飲めよ!かんぱーい」
父の乾杯が、狭い店内に何度も響き渡る。店もなんだか盛り上がって、知らない人同士が
席を移動して話して、元からみんな知り合いだったように肩を組んで飲んでいた。
わたしたちは散々飲んで、べろべろになった。正直どうやって家にたどり着いたのかもよく覚えていない。
ただただとにかく楽しかった。
翌日起きると、父はなんにも覚えていなくて、でも「楽しかったな」と一言だけわたしに言った。

いまでもその時のことを思い出すと、クスリと笑ってしまう。
初めて見た父の「外の姿」。こんな一面もあったのかと驚いた。
そしてそれは悪くなかった。

あれ以来、父とは飲んではいない。
「一緒に飲もう」とずっと素直にいい出せなかったのだ。
でも今年の父の日には一緒に乾杯をしようと思う。父に飲んでほしいビールを見つけたから、それを口実にして。

ラベルに込めた想い 人と人との心をつなぐ「UNITE」


父に飲んでほしいビール、それは「UNITE」だ。金沢にあるオリエンタルブルーイングの造る本数限定のビール。ラベルには二人が乾杯をしているイラストが描かれているが、一本の手はパソコンの中から伸びている。
このビールは、コロナの影響で外出自粛をする人たちをサポートする目的でつくられたという。
「場所は離れていても、心はつながっているよ」
「一致団結して乗り越えよう」
名前にはそんな想いがこもっている。

画像4

オンライン飲み会をする人たちの心をつなぐ「UNITE」。
ビアスタイルはIPAで、グラスに注ぐとオレンジを思わせる爽やかな柑橘系の香りがふわりと漂う。美しい黄金色のボディにもくもくとした豊かな泡立ち。
口に含むとずっしりとした苦みが広がるものの、それはゆっくりと穏やかに消えていく。苦みは再び喉の奥でその存在感を静かに主張するが、口の中に残るのは柔らかな麦の芳醇なうまみ。

目が覚めるような苦みのインパクトがありつつも、全体を通せば柔らかに側に寄り添ってくれているような味わいだった。

画像5

「なんだか父に似たビールだな」。初めてこのビールを飲んだとき、ふとそう思い、それを無性に父に伝えたくなった。面と向かったら、きっと素直に言葉にはできないだろうけど。


人と、土地との絆

父にこのビールを贈りたいと思った理由。それはこのビールをつくっているオリエンタルブルーイングの特性にもあるかもしれない。

画像6

彼らは人と、そして土地との絆を大切にしている。
彼らのHPに乗っている、店員さんとお客さんが楽しそうに映っている集合写真は、毎月第三土曜日に店舗で行っているビアフェスのもので、その日はお客さんが自由にサーバーからビールを注いで飲めるという。

知らない人同士が交流しながらわいわいと飲む空間。人と人とがつながる場所を提供しているのだ。
そんな彼らは「ローカルブルーイング」を目指しており、湯涌のゆずを使用した「ゆずエール」や、地元のお茶を使用した「加賀棒茶スタウト」などといった、地元の農産物をふんだんに使用したビールをつくっている。

人と人。そして土地をビールでつなぐ。

「つなぐ」ことを大切にしているこのブルワリーは、あの日見た父のイメージにぴったりだった。

「今の父」に贈る一本


小さい頃、父のことは苦手だった。
煙草を吸いながら、いつもイライラとした態度だった父。眉間にはいつだって皺が寄っていたし、なにかあるとすぐに「ふざけんなよ」と怒鳴られた。
ずっとそのイメージを持ち続け、父に対して苦手意識をもち距離をとっていたけれど、
あの日、スナックで見た父の姿は、わたしの知っている父ではなかった。

「UNITE」は少し温度が上がると、味わいが絶妙に変化する。
IPAの強烈だった苦みが、その存在感だけを残し柔らかく姿を変えていくように、父も歳を重ねることに、きっと少しずつ変化していっているのだろう。
そう思ったら無性に「今の父」を知りたくなった。

画像1

父の日を待ちながら、わたしは「UNITE」の爽快な苦みの味わいを思い出す。
一口飲んだ時、父は何というのだろう。
「乾杯」を重ねるたび、きっと少しずつその距離を縮まっていくのだろう。
父の日はもうすぐ。楽しみだ。

文 : 小林加苗

・HP

http://www.orientalbrewing.com/

・Instagram

https://www.instagram.com/orientalbrewing/

・Facebook

https://www.facebook.com/orientalbrewing/

・Twitter

https://twitter.com/OrientalBrewing

・YouTube

https://www.youtube.com/channel/UC-lFz9abaQGy8UiV77Twwlw




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?