【業界研究】SI業界の役割分担と下請け構造
はじめに(当記事の目的)
大手SIerに興味のある就活生や転職者の方々向けにSI業界におけるシステム構築の役割分担について説明します。
この記事を読む前にビジネスモデルの記事をさらっと読んでおくと理解が深まると思います。
本記事の対象者
SI業界に興味のある就活生あるいは転職者
システム構築における役割分担
会社が収益を上げ企業活動を継続するためには様々な業務が発生するため、業務内容に応じた組織を設け、それぞれの組織が与えられた役割を果たすことで大きな成果を出すことができています。こういった組織は事業規模が大きくなればなるほどに細分化されます。
SI業界は情報通信産業(いわゆるIT業界)の中でも最大規模の産業であり、個々のシステム構築プロジェクトにしても一人で実行できるものではないため、様々な組織が与えられた役割を果たしながら1つのプロジェクトが進められます。
抽象的な話をしてもイメージしづらいと思うので、今回は下記スライドを例にシステム構築の役割分担を具体的に説明していきましょう。組織体制やプロジェクト特性によって違いはあるもののざっくりとしたイメージはできると思います。
上記スライドでは顧客企業から元請けSIerにシステム構築を委託し、主幹部門(担当グループ)から関係部門や協力会社に業務を委託する流れを表しています。
それではそれぞれの役割を見ていきましょう。
①顧客 情報システム部
顧客企業の話ですが、ある程度の規模の企業になると社内システムを管轄する「情報システム部」を設けている場合が多いかと思います。情報システム部ではIT戦略・システム企画・開発・運用保守といったシステムライフサイクルの全工程を担います。
しかしながら、情報システム部に割り当てられる要員は限られるので、システム構築や運用保守といった工程は外部企業(SIer)に業務委託し、コスト削減や業務効率化を行なっています。
業務委託をしてもプロジェクトの最終的な責任者は情報システム部であり、例えば業務委託内容に漏れがあった場合には責任を問われることになります。こういった委託内容の漏れを防止するためにも上流工程から元請けSIerを参画させてシステム要件を取りまとめているわけですね。
なお、情報システム部と元請けSIerとでは、情報システム部の方が責任範囲が広くなります。例えば、「工場設備の老朽更新」というプロジェクトがあった場合、SIerに委託するシステム改修部分と、メーカーに委託する工場設備部分に分かれますが、SIer側はシステム改修部分しか責任を負いません。このように役割=責任範囲と考えると良いと思います。
②元請けSIer主幹部門
SIer側の役割は委託された業務の遂行です。これは元請けだろうが下請けだろうが変わりません。委託される内容・範囲に違いがあるだけです。
顧客からシステム構築プロジェクトを受注する元請けSIerの担当グループ(以降、プロジェクト主幹部門)はシステム構築の業務委託をされたわけですので、品質・納期・予算通りにシステム構築を遂行することが求められます。
この業務範囲には新システムのアプリケーションはもちろんのこと、稼働するインフラや関係する他システムの動作も含まれるので、プロジェクト主幹部門から様々な組織に調査や検討を依頼しながらシステム構築に必要な要素を抽出していきます。
こうして抽出した要素から各々の組織に業務を仕分け、プロジェクト全体が円滑に進むように指揮管理していくのがプロジェクト主幹部門の役割となります。
③1次下請け企業
1次下請け企業の役割も委託された業務内容の遂行です。今回の例ではアプリケーションをサブシステム毎に委託先を分けた例で、それぞれの企業は割り当てられた担当部分を開発します。
システム構築プロジェクトでは実装工程に最も人手が必要となるため、納期制約上マンパワーが足りない場合は2次下請け企業に機能の一部を再委託して納期に間に合うようにサブシステムの完成を目指します。
④2次下請け企業
前述したように、サブシステムの機能開発において1次下請け企業のマンパワーが足りない場合には一部機能の開発が2次下請け企業に再委託されます。
2次下請け企業への委託は一部機能の実装なので数ヶ月の短期参入になりやすく、業務終了後(契約終了後)は別プロジェクトへと移ります。
⑤他システムグループ
新システムを構築する際には他システム側の改修が発生することもよくあります。例えば新システムの機能動作に必要となる入力データを他システムからもらうための機能を作ってもらったり、あるいは新システムで作成したデータを他システムに渡して既存機能を動かしたりします。
元請けSIerは顧客業務に応じた組織体制にしていることが多いので、影響のありそうな他システムグループに調査や検討を依頼し、プロジェクト受注後はそのまま改修に入ってもらいます。
同じ企業内の業務依頼なので "委託部分の遂行" と書くのは適切ではない気もしますが、他システムグループはプロジェクト主幹部門から依頼されたシステム改修を行う役割を負います。
なお、当資料では細かく書いていませんが、他システムグループにおいても実装は下請け企業にて実務作業が行われます。
⑥インフラグループ
新システム構築には当然ながら稼働するインフラが必要です。多くの企業ではアプリとインフラとで担当部門が分けられているので、主幹部門はインフラ部門に対して作業を依頼します。
こちらも例では同じ企業内なので「委託部分の遂行」と書くのは適切ではない気がしますが、主幹部門から依頼を受けた範囲(インフラ構築)が業務範囲となります。
大手SIerのインフラ部門はサーバー、ネットワーク、ストレージといった要素に応じて組織が細分化されているので今回の例よりも多少は複雑です。
以上がシステム構築における役割分担のイメージです。SI業界のシステム構築は規模が大きいので各々の組織機能に応じて業務内容を振り分けて1つのシステムを作り上げることになります。
さいごに
今回はシステム構築の役割分担について説明をしましたが、運用保守でも同じように役割分担をされています。情報システム部から元請けSIerに運用保守がまるっと委託され、システム毎に下請け企業に再委託される構造です。
こういった下請け構造は規模の大きいシステムを扱うSI業界では必要不可欠ですが、多重下請け構造による中抜き問題や責任所在の不明瞭問題の原因とも言われており対策を講じている企業もあります。2009年の古い情報ではありますが、参考資料として下記に引用しておきます。
では今回はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
経済産業省, 情報サービス・ソフトウェア産業における下請取引等に関する実態調査
更新履歴
2023年1月21日 初回公開
2023年1月25日 タイトル変更
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