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映画レビュー#017 『ミッドナイトスワン』(2020年)

予告編を観てからずっと気になっていた映画。予告編の時点で草彅剛が草彅剛に見えなかったので。


これは観に行って良かった。ちょっとやられた。


広島の実家にはカミングアウトせず、新宿のショーパブで働くトランスジェンダー女性の凪沙(草彅剛)。その凪沙の従姉妹の娘・一果(服部樹咲)はネグレクトで保護され、凪沙の元へ短期間預けられることになり、共同生活が始まる。

新宿という大都会が舞台なのに、まるで世界の隅っこにひっそり暮らしているような2人。
あぁこれはまいったな。思い出しながら書こうと思ってもまだ気持ちが落ち着かない。


どうして私が。
なんで私たちが。


みんな生きづらい。ただでさえ生きづらい世界なのに、この映画に出てくる登場人物たちはもっと生きづらい世界で暮らしているんだと思う。
「流行ってますもんね、LGBT」、じゃねえよ。この面接官も、パブに来た芸能プロのヤツも酔っ払いもクソは割とクソとして描かれる。理解のない、ではなく「理解できない」男性の嫌なところを抽出した感じ。で、結局それが日本の嫌なところとイコールになってしまうのがまた嫌だな。

「わたし子供嫌いだから」と言っていた凪沙。その凪沙が徐々に一果と向き合い、受容し変容していく姿に胸を強く打たれた。
予告編の時点で草彅剛ではなかったけど、本編で見るとますます草彅剛ではなくちゃんと凪沙として存在していた。それぐらい自分のものにしていたと思う。草彅剛すごかった。
一度だけ凪沙ではない姿になるのだが、その姿の方が違和感があり、凪沙でいる方が自然に見えた。すごいぞつよぽん、とか言えない。
公開日ということもあり、劇場は草彅剛ファンと見受けられる方々で割と混み合ってたけど、草彅剛ファンの方だけが観るのではもったいない映画だと思う。つよぽん好きはもちろん、LGBTQに関心があるとかちょっとでも気になったら観に行って損はないと思う。
凪沙が読んでた漫画が『らんま1/2』なのが微笑ましいと言っていいのかなんと言っていいのか。


一果役の服部樹咲。まだ14歳の新人ということですが、存在感あったな。特に前半はほとんど喋らないので(まぁ全体的に一果はあまり喋ることは少ないのだが)、余計にその存在が気になって目で追ってしまうっていうのもあったかもしれないけど。
経歴を見たらバリバリのバレリーナで、そりゃそうだよなと。バレエのシーンすごく綺麗だったし。バレエの演技自体も振り幅があって、上手いのもそうでないのもできるのって凄いと思う。

一果の唯一の友達りん(上野鈴華)。ある意味現代の象徴という感じ。りんの親もある種ネグレクトだよな。「この子からバレエを取ったら何も残らないんです」とか。ただりんにああいう結末が必要だったかどうかは微妙だけど、あの世代特有の不安定さを全て引き受けた感じもする。


ショーパブで働くみんなに、それぞれのストーリーがあって。それが新宿という大きな街と隣り合わせになっていることに何ともいえなもどかしさを感じる。ネオンに照らされる街なのに。


後半から、特に海辺のシーンなどは観ている私も色々な感情がぐるぐる蠢いてしまって、観終えてからため息ともなんとも言えないような大きな息を吐いてしまった。帰ってくる時もボーッとした感じだった。

ラストに向かってある大きな出来事がある。それについてはどうなんだろう、と思わなくもないけど、あまりそこばかりにフォーカスするのもどうなんだろう、とも思うのでここでは特に触れない。

鑑賞してから一晩経ってもまだ気持ちの整理がつかない。
観に行って良かったです。テーマ曲も綺麗だったな。余韻だけでなく残り香まで感じられる映画。
この映画こそパンフレット欲しかったんだけど、あるのは電子版のみで、モノとしては作られてないようで残念。


夜の公園で凪沙が一果にバレエを教わるシーンが好き。そこだけじゃなく、かなりグッとくるシーンが多々ありました。

鑑賞日2020年9月26日(劇場)

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