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マジックアワーに待つ人

夕暮れに染まる
街を見下ろすラウンジで、
先輩を待っている

外はすっかり、秋の色

カップドリンクの自販機にお金を入れて、
ココアのボタンを押す

カカオの香りが
湯気と一緒にのぼってきた

今日は、いい席が取れた

ココアのやさしい甘さに
ホッとしながら
大好きなこの街を
ゆっくりと眺める

先輩、忙しいのかな
ちょうど綺麗な時間
見せたかったな

イギリス留学をしていた彼女は
なぜかいつも異国の香りがする

私にこの場所を教えてくれたのも
彼女だった

あ!そういえば先輩がすすめてくれた、
夜のピクニックの本

最近は活字疲れをしているから、
映画をみようと思っていたのに

そんなことをぼんやり考えていると

「音葉ちゃん、待った?」

ふんわりとしているのに凛と響く
彼女の声が聴こえた

いつもと同じ、柔らかな笑顔
ジャスミンのような、ローズのような
フローラルの香りが鼻腔をくすぐる

外はまだ、
オレンジとうす紫が美しい

彼女をここで待つ時間は、
あのマジックアワーの色とともに
私の宝物