鴨せいろ

あれはいつだったか

ガイドマップをつくるボランティアで
ある街の飲食店の取材をしていた頃

その地域で
有名なお蕎麦屋さんに入った

店主も女将さんも
とても感じのいい人だった

お店の雰囲気も
昔ながらの日本家屋の造りで、
抹茶色の砂壁に懐かしさと
安心感をおぼえて

お蕎麦を食べる前から
その空間を気に入っていた

事前連絡していた取材のものだと告げる

大きな木の机に座り、おすすめを聞くと
「鴨せいろだよ」と言われた

鴨せいろ？

お蕎麦屋さんには
あまり馴染みがないので
よく分からなかったが
それにしてみる

出てきたのは、冷たいお蕎麦と
鴨肉とネギが入ったつけ汁

鴨肉の脂が美味しそうにつけ汁に
浮かんでいる
肉はけっこう大きい

口に入れると、
角煮のようにほろっとして
とろみのある鴨出汁の濃い味と
臭みを消すネギの青い味がマッチしていた

なにこれ、美味しい

この街のお店を何軒か取材したけれど、
圧倒的な味だった

大学からはバスで小一時間
この味を求めて、学生時代は
友達と何度か足を運んだものだ

今もまだ、あのお店はあるのだろか

今日は鴨せいろが食べたい、
そんな気分だ

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写真　あみい博士さま