ほしいものは
寝室のベットに腰掛けながら、
宝石たちを眺めては、その思い出に
思いをめぐらす、あなたの姿が好きだった。
あれはいつだったか、いつもと同じようにそこに
座っているあなたの傍で本を読んでいた。
「ねえ、音葉。気に入ったものがあったら持っていってもいいのよ。」
どきり、とした。
今までなら、「貸して」と言っても、「もう少し大人になってからね」とあしらわれるくらい、あなたはその宝たちを大切にしていたから。
「まだいいよ。」
受け取ってしまったら、あなたがいなくなってしまうようで、それから何度となくあったこのやり取りの、私の答えはいつも同じだった。
そしてある時から、あなたはその宝をどこに置いたか、しまったかも分からなくなってしまった。
その宝たちとの思い出も、病によって消されてしまった。
私が欲しかったのは、その宝ではない。
あなたと過ごす時間だった。あなたとする何気ない会話だった。あなたがいてくれれば、それで良かった。
大好きな大好きな人。
あなたにもらった記憶と、あなたと過ごした時間。
これが、私にとっての生涯の宝物。