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ひと夜の花

いつの夜だったか、2階で寝ていると、
ふと甘い香りが漂ってきた。

なんの香りだろう?
階段を降る度に強く感じる
甘い百合のような香り。

「そうか、咲いたんだ」

明かりのついている部屋を覗くと、
飾り台上にに咲く大輪の白があった。
そこには、花を嬉しそうに眺める
あなた姿があった。

たった一夜、この瞬間のために咲く花。
全ての力と全ての美しさを、この瞬間に放つ。
儚いようで、力強い。

たった一夜の出逢いなのに、
きっとこの夜を永遠に忘れることはない。

あの花を待つ あなたの姿も。
あの花に出逢った あなたの姿も。

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あとがき

月下美人を育てていた祖母。
「今日咲くよ」ところころと笑いながら、
子どものように待っていたのを思いだす。

家中に立ち込めるその香りは、どこかエキゾチックな香りがした。

花の香りで目を覚ましたのは、後にも先にもきっとあの夜だけだと思う。