麺から気づいた、わたしがマレーシアを好きな理由。
マレーシア料理に「板麺 / パンミー」という麺料理がある。
麺をつくるとき、板状に伸ばしてからカットするので、板(パン)麺(ミー=小麦麺)。うどんのようなもちもちした麺が特徴で、形状は、細、太、平打ち、ちぎりと、店や種類によっていろいろ。
パンミーのオリジナル味は、平打ち麺をつかった煮干しのスープ。で、欠かせない具は、煮干しだ。
ん? 煮干し? と最初に食べたときは不思議に思ったけど、この煮干しが、とってもいい。日本の“食べる煮干し”より若干塩気の強いもので、カリッと素揚げ。食感のアクセント、香ばしい風味も絶妙で、たしかに立派な具、いや、主役の具である。
さて、ある日のこと。パンミー専門店で、友人が「ミッ」と注文するのを目撃した。店によって呼び名が違うようだが、ミッとは、ちぎり麺。手でのばした麺を一口サイズの大きさにちぎったもので、レンゲにのせて、スープと一緒につるんとほおばる。これがめちゃうまい。つるつる箸でつかみにくい平打ち麺より食べやすいし、もっちり感も強い。
そんなわけで、4年のマレーシア在住時代、パンミー(ミッ)をしょっちゅう食べた。同僚に「Otoさんとランチに行くと、いつもパンミーばかりで困る」と言われてもへこたれず、おいしいパンミーがあると聞けば、高速道路を1時間、車をとばして、食べに行ったりもした。
そして、あるとき、気づいた。
パンミーって、熊本のだご汁だ……!
煮干し(いりこ)のだしといい、ちぎり麺の形状といい。幼いころ家で食べていただご汁にそっくり。だからなのか、わたしがこんなにパンミーが好きで、何度食べても飽きないのは。
大学で家を出てから、おばあちゃんが作っただご汁は1度も食べなかった。あまりにも普段の味だったので、久しぶりに帰省したときの食卓には出てこなかったし、わたしがリクエストをすることもなかった。
そんなだご汁のことを、パンミーを通して思い出すことができた。なつかしいだご汁の記憶。あぁ、おばあちゃんのだご汁、本当においしかったよ。
初めて食べた料理をちゃんとおいしいと感じることができるのは、その味のどこかに、それまでのじぶんの経験の何かが触れているからだと思う。それはときおり、自覚していなかった感情さえ掘り起こす。
わたしがわたしの顔を見ることができないように、外の刺激でしか、じぶんの輪郭をはっきりさせることはできない。面倒だけど、おもしろい。
だから、わたしはマレーシアという異国を追いかけているのだ。マレーシアをとおして、まだ知らないわたしを発見するために。
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これがパンミー。具は、煮干し、しいたけ、緑の葉物は「サユマユス」とよぶハーブ。日本人にはとても食べやすい味なので、ぜひ。