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マレーシアのドリアンのディープな話し。

マレーシアにドリアンの季節がやってきた。今年はロックダウン中で屋台は開いていないが、「onlineで頼めるよ」とペナン在のリムさんがリンクを送ってくれた。

カバー画像には、ぷっくりしていて、表面にちょっとシワのあるドリアンの実。よくみると、白い外皮と黄色の実の間にすき間がある。これぞ、マレーシア人にとって最高のドリアン。シワやすき間は、実がちょうどいいやわらかさで、スジ(固い繊維質)がない印。ドリアンを買いにきた人が、ドリアンを果敢に手で持ち上げ、耳に近づけて軽くゆすっているのをときどき見かけるが、あれはすき間の有無を音で聞き分けている。

買った? とリムさんにたずねると「いや、今出ている品種は好みじゃない。ぼくの好きなブラックトン(黒刺)を待っている」と。さすがリムさん、やっぱりドリアン好きだね~!

ということで今日は、いつかぜひ、みなさんに食べて欲しい、マレーシアのドリアン事情をたっぷり紹介しよう!

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ドリアンは、トゲトゲの固い外皮を割ると、内部は3~5の房に分かれていて、それぞれの房に三日月型のくぼみがある。そのなかに、かぐわしい匂いを放つ、黄色いドリアンの実。ちなみに、くぼみにドリアンが入っているさまは「kucing tidur」(クチン・ティドゥ=猫が寝ている)と表現され、マレーシア人の萌えポイント。

ドリアンの旬は、5~8月の年に1回(11~2月に売られていることもあるが、これはあくまでもサブ)。この時期になると、市場、屋台、ときに道端でドリアンがわんさか並ぶ。驚くのは、その種類。ドリアンは、梨やりんごのように、じつに多くの種類がある。

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これは2019年に訪れたペナンのドリアン屋台。赤と黄色の札に書かれているのが種類名。「紅蝦」「紅仁」「D14」「金龍」「Ganja」「猫山王」「黒刺」など、18種のドリアンが売られていた。これらはすべて、流通目的で品種改良された、いわゆる“ブランド”ドリアン。

それに対して“カンポン”ドリアン(カンポンとは田舎)とよばれる、改良なしの天然ドリアンがある。こちらは、地元の人用や家族で食べる名無しのドリアン。ブランドドリアンに比べるとサイズが小ぶりだ。

ブランドドリアンのサイズは、こちら。大人の頭ぐらい。

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こちらがカンポンドリアン。なかにはもっと小さい手のりサイズもある。

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種類が違えば、サイズのほかに、トゲのつき方、外皮や実の色、種の形、そして匂いや味など、さまざまな違いがある。たとえば、最初の2個並んだ写真、実の色が違うのがわかりますか。これらはブランドドリアンで、右の濃い黄色が「猫山王(マオサンオウ)」、左の薄い黄色が「D24」。

カンポンドリアンも多彩で、これはボルネオ島のコタキナバルの市場で食べたオレンジ色のドリアン。

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ビビッドな色のわりには、甘さや匂いはひかえめで食べやすかった。

ところで、数あるブランドドリアンのなかに、ドリアン好きたちが絶賛する最高級トップドリアンというものが存在する。品種改良で新ブランドが登場しつづけるドリアン業界において、このトップドリアンも年々変化する。

わたしが暮らしていた10年前は「D24」。それが「猫山王」にかわり、このドリアンは中国でも大ヒット。高値で取引されるようになったため、マレーシアでの販売価格もびっくりするほど高騰した。

そして、ここ数年、トップの座に君臨しているのが、リムさんの好物である「黒刺(ブラックトン)」。ペナンの屋台で見た料金表によると、紅蝦が25リンギット(1kgあたり、750円ぐらい)に対して、「黒刺」は65リンギット(1950円ぐらい)というように価格差も半端ない。


次に、味について。

マレーシア人はよく「ドリアンはビター&スイートが最高」という。そう、ドリアンは、甘みのなかに、ほのかな苦みがある。

といっても、薬のような不快な苦みではない。というのも、ドリアンには子どものファンも多い。スンさんの甥っ子ちゃんはドリアンが大の好物で、これでおしまい、と大人が止めるまで食べ続けていたし、現地で暮らす日本人のももちゃんもニコニコの笑顔でかぶりついていた。

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子どもは、おいしくないものは食べないので、彼らがあんなにぞっこんということは、やっぱりドリアンは美味なのだ。ちなみに、本能で生きている犬や猫にもドリアン好きがいる。

わたしとしては、ビター&スイートをつきつめていくと、ドリアンはチョコレートに近いのでは、と思っている。あの匂いを変えれば、きっと生チョコだ。それも、映画「ショコラ」で描かれているような官能的な味。ちなみに、冷蔵庫で冷やすと、よりチョコ感が増すのでおためしを。

さて、もうひとつ。ドリアンの大きな特徴が食感だ。

ドリアンは、かまない。とろとろのカマンベールチーズぐらいのやわらかい食感であり、実のなかに大きな種が入っているため、正確に表現すると、かめない。なので、食べ方としては、種のまわりをしゃぶる。

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そして、味と食感に、個人の好みがでる。たとえば、ねっとり食感で濃厚な味が好きとか、クリームのようななめらかな食感で甘さひかえめが好きなど。この好みによって、ドリアンの種類を選ぶのだ。

そうそう、好みに関しては、どうも国民全体の好みの違いもあるようだ。マレーシア人は概して、ねっとり食感で、濃厚な味のものを好む。なのでトップドリアン「黒刺」もこの系統。ところがタイのドリアンには、ほくほくと芋のようなもの(熟れる前なのかな?)もあるらしい。きっとタイ人の好みなのだろう。ドリアンは雑種でクローンが生まれない品種だそうで、地域や個体差が強い。ドリアンの個性はまさに百花繚乱、そして、その土地、その時に出会えた、一期一会の味なのだ。

さてさて。ドリアンがNGな人の理由も書いておこう。もちろん、ドリアンが嫌いなマレーシア人もちゃんといる。

『ドリアン-果物の王』(塚谷裕一著)によると、人間の嗅覚というのはとても複雑な仕組みで、人によって匂いの感じ方が違うそうだ。そのため、どうしてもドリアンの匂いが受け入れられない人が一定数いるらしい。

この匂い。ドリアン好きなわたしは、あまり気にならない。このくさいの向こうに美味なるドリアンが待っていると思うと、むしろ魅惑の匂いに感じるし、ときおり、玉ねぎが腐ったような生ごみにもドリアンっぽさを感じてテンションが上がるなど、マニア化がすすんでいる。

匂いについて、あらためて自分を振り返ってみると、ドリアンは食べる前は匂いが気になるが、食べているときはほとんど匂わない。クリーミーで濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、匂いを感じなくなるのだ。そういえば、人生で初めて「くさや」を食べたとき。あのときは、かむごとにくさやの匂いが口中に広がって、ぐぐっ……となった。のちに慣れたけど、あれは辛かった。ということは、たぶん、一定数のドリアンNGの人は、かむごとにドリアンの匂いが広がるのかも。だとすると、ちょっとしんどいのはわかる。


ということで、今回はマレーシアのドリアンの種類、味、食感、匂いについてまとめてみた。

次は、ドリアン好きのマレーシア人が、大胆にもドリアンスイーツをばんばん開発しているということ。そして、ドリアンは食べ過ぎ注意、というおはなしを。ドリアンばなし、ネバーエンドです。

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ドリアンは季節ものなので、5~8月にマレーシアに旅をしたら、ぜひトライしてみてね(季節でない場合はハズれが増えるので注意)。この時期は、写真のようにスーパーにパック売りのドリアンが並ぶ。できれば冷やしと(ホテルには持ちこめないけれど…)、かなり食べやすくなると思う。

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