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マレーシア人女性のスカーフの話し。

こんな話しを聞いた。友人がスーパーで買い物中、子どもが彼女をゆびさして、お母さんにこう聞いたそうだ。「あの人の国ではコロナがいっぱいなの?」。

そのとき彼女は、マスクをつけ、頭にはスカーフを巻いていた。子どもがどんな理由でコロナに結びつけたのかはよくわからないけど、たぶん、イスラム教徒である彼女のスカーフ姿をめずらしく感じたのだろう。

わたしは以前、マレーシアに住んでいたことがある。マレーシアでは国民の7割近くがイスラム教徒なので、彼女のようなスカーフ姿の女性は街でよく見かけるとても身近な存在だ。

でも日本にいると、そのような人はめったに見ないし、イスラム教徒の方と知り合いになれるチャンスもほとんどない。だから知らないのは当然よね。

そこで今日は、このスカーフについて、マレーシアでの事情をたっぷり紹介しよう!

国によって事情は異なるので、あくまでもマレーシアの話しになるけど、この業界、かなり興味深いのだ。ひとことで表現するなら、宗教とファッションと個人意思が融合した表現スタイルという感じ。知るとけっこう楽しいよ。

ではさっそく基礎情報から。

マレーシアでは、イスラム教徒の女性が頭に巻くスカーフのことを「トゥドゥンTudung」とよぶ。国によって呼び名が異なり、中東ではヒジャブ(これが世界では一般的)、インドネシアではジルバブ(布自体、巻いた状態はヒジャブとなる)など。

なぜ頭に巻くかというと、家族以外の男性にじぶんの髪を見せないように。なので、前髪も含めて、髪はぜんぶスカーフのなかに入れる。

ただし、成人女性の場合は個人の意思が尊重されていて、巻かない人もいるし、結婚式やハリラヤ(断食明けの祭り)などの行事のときだけ巻く人もいる。子どもの場合はファミリーの考え方次第。また、学校の校則でトゥドゥン着用を定めているところもあるそうだ。若いときはつけなかったけど、結婚してから巻くようにしている、という人もいた。

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こちらは、マレーシアでの結婚式の様子。新婦、ブライドメイドともにトゥドゥンを着用。花飾りやティアラはトゥドゥンの上にのせる。

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マレーシアの女性警察官は黒のトゥドゥンが制服。その上に警察帽を着用。看護師さんも着用していて、最近は使い捨てトゥドゥンもある。

ちなみに、友人いわく「トゥドゥンで隠すので、ふだんの髪型は適当でもいいのよ」と楽ちんな面もあるらしい。また、耳の下からあご部分まですっと布が覆うため、つけ方によっては小顔効果がある気もする。

そういえば、以前イベントでマレーシアの民族衣装を着ていたら、「オトさん、その洋服にトゥドゥンを合わせたらもっと可愛いのに」とマレーシア人に言われたことがある。きっとその人にとってトゥドゥンとは、タキシードに蝶ネクタイがないとしまらないように、スタイルを決める正装アイテムのようなものかもしれない。


では次。トゥドゥンそのものについて。

トゥドゥンは1枚のスカーフである。艶のあるシルク素材、透け感のある麻素材、ハリのあるポリエステル、つけ心地のいい伸縮性のあるものなど、素材はさまざま。さらに、単色のものから花柄にペイズリー柄、キラキラ光るビーズで縁取りされたものなど、色や柄も多種多彩。モチーフや素材感などの組み合わせで、デザインは無数にある。

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マレーシアのショッピングモールや商店街にはトゥドゥンが売り場があり、女性に人気の買い物スポット。

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トゥドゥンの色や柄は着る洋服に合わせる。オレンジの洋服にオレンジのトゥドゥン、ブルーで統一など、まるで髪飾りを楽しむような感覚だ。

ファッション好きな人が洋服をたくさん持っているように、おしゃれ好きの女性ならトゥドゥンをたくさん持っている。たぶん50枚ぐらい持っている人はザラにいるのでは。そのなかには、お母さんからのおさがり、友人からのプレゼント、お気に入りトゥドゥン、勝負服ならぬ勝負トゥドゥンだってある。


次に、巻き方について。

よく見ると、巻き方によって顔まわりの印象はガラリとかわる。たとえるなら、髪をおろすか結ぶかぐらい、外見の印象に影響を与える。なので、巻き方にはその人の個性がでるし、TPOに合わせたものになる。

たとえば昨年、新宿で開催された「マレーシアフェア」の体験コーナーでやっていたのは、胸の前に布を大きく垂らす「バワル巻き」と首元をきゅっと巻き込む「ショール巻き」。前者のほうがエレガントで、後者はファッショナブルにみえる。

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バワル巻きに挑戦してみた(筆者右から2番目)。なお、生地感によっても巻き方の向き不向きがあるらしい。

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巻き方紹介の本。最近では Youtube の巻き方動画も人気。

また、巻くときに使える便利アイテムもある。たとえば、後頭部の形を綺麗に見せるための“つけおだんご”。おでこ部分をかっこよく見せるための、つばのあるインナー。さらには、時間がないときや子ども用に、かぶるだけですでに形ができている簡易トゥドゥン(インスタント・トゥドゥン)。さまざまな工夫でトゥドゥンを楽しんでいるのだ。

そうそう、このトピックも紹介しよう。

2016年、話題になったのが、ユニクロが日本で販売したヒジャブ。エアリズムで作られたヒジャブは着け心地がよく、日本でもあっという間に売り切れになったとか。マレーシアでもたいへん好評だったという。

このとき、ファッションデザイナーとして活躍したのがハナタジマさん。

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こちらはマレーシアのユニクロの宣伝看板。日本人のお父さんをもつハナタジマさん(写真右)は、イスラム教徒の女性のファッションリーダー的存在。ハナタジマさんのインスタ、とてもおしゃれなので興味がある方はぜひチェック。


友人によると、20年前ぐらいに比べて、スカーフのデザインや巻き方のスタイルの種類が増え、トゥドゥン業界はずいぶん華やかになったそうだ。時代とともにおしゃれになっているトゥドゥン。そして、わたし好みのスタイルを楽しむのは世界共通だ。スーパーにいた子どもちゃん、いつか会えたら、ゆっくりお話ししようね。

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マレーシアで購入したドリアンチョコ。チョコとドリアン、意外に思うかもしれないけど、とっても相性がいい。どちらもほろ苦くて甘いから。今度行ったら、また買おう。

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