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カヤトーストを深掘り 後編。


さらに「カヤトースト」を深掘り! どんどん濃くなります~。


5 ■カヤトーストを提供するのは「コピティアム」

カヤトーストは、「コピティアム kopitiam」とよぶコーヒー(コピ)がうりの喫茶店で提供されている。ちなみにティアムとは福建語で店のこと。

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なぜ、コピティアムでカヤトーストが提供されるようになったのか。

わたしの想像だけど、たぶん、店主はコーヒーが命の人なので、料理は手軽に作れるものでよかった。ならば調理が簡単で、コーヒーにあうカヤトーストがいいね、となった。ちょうど、お湯をわかすための炭火でトーストが焼けるしね。

また、カヤトーストは甘い。なので、日本人が喫茶店でケーキを頼むのと同じ感覚で、カヤトーストをコーヒーと一緒に食べるおやつにできる。

いや、逆にいえば、朝ごはんに甘い味の「カヤトースト」を食べるほうが、日本人的には不思議かな。じつは、甘いものを朝ごはんにするという食習慣は、マレーシアやインドネシアなどの東南アジアではおなじみ。彼らにとってスイーツは、朝ごはんなのだ。


さて、こちらは、コピティアム文化が根付いているイポーの老舗の喫茶店のカヤトースト(上の皿。下の皿はトースト&温泉卵)。


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今もなお、昔と変わらないスタイルで提供している。(photo by Teo Siw Lee san)

そして、こちらは、イポーの老舗の発展系、おしゃれなローカルカフェ・チェーン「オールドタウン ホワイトコーヒー」のカヤトースト。薄切りの黒パンを使用した看板メニュー。

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「オールドタウン ホワイトコーヒー」は、今やマレーシア全土で200店舗以上を展開する。このカフェの出現が、カヤトーストという昔ながらの味が、じぶんたちにとって大事な食文化であるということをマレーシア人に認識させ、現在の人気につながっているのでは、と思う。


6 ■カヤトーストの名前はひとつじゃない

カヤトーストはマレーシア全土でポピュラーな味。ただ、ボルネオでは、別の名前で呼ばれている。

それは「ロティ・カウィン Roti Kahwin」。「ロティ」とはパン、「カウィン」とは結婚という意味で、結婚するほど仲がよい、相性が抜群の組み合わせ、ということらしい。

また、ボルネオ島サラワク州の一部では「ロティ・キアップ Roti Kiap」とも呼ぶ。「キアップ」とは福建語で“はさむ”で、つまりはサンドイッチ。

さらに「ロティ・バカール Roti Bakar」とメニュー表に記されていることもある。「バカール」とは焼くという意味で、ようはトースト。焼いたパンにカヤが添えられているバージョンだ。


7 ■カヤトーストのルーツ

さて、カヤジャムに「ハイナニーズ Hainanese」という冠がついていることがある。

ハイナニーズとは、中国南部の海南島のこと。ご存じチキンライスも“海南チキンライス”とよばれるように、カヤジャムもチキンライスと同様、海南島にルーツをもつ中国人が作り出した、という説がある。

というのも、海南島の人々は、もともと男性が料理をする風習があったこともあり、マレー半島に移民として移り住んだ後、レストランや富裕層の家の料理人に就くことが多かった。

英国人の主人に仕えることも多く、彼らの母国の食文化であるパンにあうジャムを、この土地でよくとれるココナッツミルクで作った、というのがカヤジャムのはじまりらしい。

なので、ハイナニーズという冠がついているのは、オリジナルと同義語。また、パンダンを加えるのは、マラッカで誕生したプラナカンとよばれる人々が作るニョニャ料理の特徴といわれ、パンダン味のカヤは「ニョニャ・カヤ nyonya kaya」と名付けられていることもある。

ちなみに、パンが薄切りなのも英国文化だなぁ、と感じている。かれこれ20年前近くになるけど、イギリスで友人宅に泊まったとき、朝ごはんに、同じような薄切りのトーストを食べた思い出があるからだ。あぁなつかしい。


8 ■カヤトーストを浸すのは半熟卵だけじゃないよ

これはかなりレアな話し。サラワク州では麺料理「ラクサ」のスープにカヤトーストを浸して食べることもある。

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なぜかというと、サラワク人は朝ごはんにしょっちゅうラクサを食べているので、同じ朝ごはんの定番であるカヤトーストとラクサが、一緒のテーブルにあることが多いのだ。

カヤトーストをラクサのスープにひたす。これ、驚くなかれ、かなりおいしい。スパイスのきいたスープと甘いカヤジャムの相性は、意外や意外、やみつき度満点。そして、マレーシア人が好きなラクサとカヤトーストを合わせるなんて、ザ・マレーシアの極致の味のような気もする。


9 ■カヤジャム活用術 その1 トースト以外のパンにも合うよ

カヤジャムを合わせるのは、なにもトーストだけではない。

ふわふわの食パンに合わせるのは、ボルネオ島のコタキナバルにある人気の店「フックユエン」。ここは自家製の食パンを厚切りにし、バターとカヤジャムをたっぷりと。

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また、ジョホール州のコピティアムで食べたのは丸いパン。裏も表もていねいに焼いてあった。

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そうそう、クアラルンプールで人気の「ユッキー」レストランでは、カヤジャムのロールケーキが人気。しっとり食感のロールケーキに、甘いカヤがよく合う。

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イポーにある行列にできる店「シン・エン・ヒョン」の名物は、カヤパフ。パイ生地のなかにカヤジャムがたっぷり。焼きあがった瞬間からどんどん売れていく人気のおやつ。

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10 ■カヤジャム活用術 その2 パンだけじゃないよ

カヤジャムは、パンだけでなくもち米にも合わせる。

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「イポー人は、もち米とカヤジャムがあればどれだけでも食べます!」とは、在日20年のマレーシア人リンさん。マレー半島のクアラルンプールとペナンの間に位置するイポー出身。これ、おはぎ感覚よね。

また、ニョニャ料理のクエ(おかし)にも、カヤジャムともち米を合わせたものがある。名前は「プルッ・タイタイ pulut taitai」。

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ココナッツミルクで風味をつけたもち米をぎゅっと固め、カヤジャムをつけて食べる。

これは、マレージアンクイジーン店がイベントで提供したもので緑なのはパンダンカラー。もち米とカヤジャム、かなり相性がいい。

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また、これはマラッカのホテル「マジェスティック・マラッカ」のレストランで提供しているスイーツ「kaya sticky rice」。もち米とカヤジャム、同じコンビを美しいデザートにしたら、こうなる。

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青いのは、バタフライピーのお花の色。

そのほか、肉まんの餡のかわりにカヤを入れた「カヤパオ kaya pao」、スイーツピザとしての「カヤピザ」、ロティチャナイという薄焼きパンにカヤをはさんだ「ロティカヤ roti kaya」。またスコーンにつけるジャムとして、ホテルのアフタヌーンティーに登場することも。とにかく、カヤジャムの活用術は幅広い。

さらに、カヤトーストが大好きなイラストレーター「Sugar Addict」さんはオリジナルグッズも制作!

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ということで、カヤトースト事情。みんなから愛されるカヤ、そしてカヤトーストの話題はつきないのである。

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こんなふうに小ネタをたくさん集めていくと、歴史の流れや人々の営みのような、ある意味、壮大な景色がふっと目の前にたちのぼってくることがある。この瞬間がとっても楽しくて、やめられないのです。


次回の屋台祭り・オンラインは、8月29日(土曜)15:00~16:30、テーマは「サンバル」。事前に簡単なレシピを公開しますので、ご自宅で食べつつ、視聴していただければ。詳細が決まり次第、Webで告知します!


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