『人間の絆』
読みました。
物語の登場人物というのはわたしにとっては他者なので、かれらの姿を見て自分自身の行動に反映させようという気持ちは今までめったに起こらなかったけど、『人間の絆』の主人公フィリップの性格は――特に短所が――あまりにも自分に似ていて、これほど紆余曲折して辛酸をなめたフィリップでも大丈夫になったんだから、自分の人生も大丈夫なのかもしれない……と思えた。
ほんとにいろいろあって、すごかったです。モーム作品を読むの初めてだったんですが、淡々とした書きぶりなのにおもしろくて、他の作品も読もうと思った。
しかしながら終盤になるまでずっと、どうしてこのタイトルなんだろうと不思議だった。フィリップはずっと孤独にさいなまれながら生きていたから。最後まで読みおえて、フィリップをどん底の淵から救ったのがアセルニーさんとのつながりで、最後もああいう終わりだからなと思ったりした。
日本語で「絆」というと人間と人間の間にあるつながりのことだけど、そもそも原題は"Of Human Bondage"で、bondageは隷属状態、束縛、屈従と、好ましい意味ではない。訳者解説によれば、これはスピノザ『エチカ』に由来するタイトルということだった。このBondageは「人間と人間の絆」ではなく、「情念によって人間が束縛されている状態」を指すのだと。
そういわれるとぴったりのタイトルで納得するんだけど、それを「人間の絆」と訳すのはあまりにもミスリードじゃないかな……「人間の隷属状態について」だと読んでもらえなさそうだな、という判断だとしたら、その気持ちはわからないでもないけど。
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