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『ギャラクシー王子』短編オトシネマ(オーディオドラマ)脚本

「耳で聴いて心で感じる」オトシネマは、音の映画をコンセプトに、様々な音声作品をSpotify等の音声プラットフォームにて配信しております。

こちらのオトシネマ作品集【脚本アーカイブ】では、配信されている作品を文章の形でご紹介させて頂きます。

耳の不自由な方、聴くのが難しい環境の方も、是非こちらからオトシネマコンテンツをお楽しみ頂けましたら幸いです。

ギャラクシー王子(アイコン用補正画像)

『ギャラクシー王子』

登場人物
■上野千恵(20歳・女性)
■ギャラクシー王子(12歳・男性)
■銀河ボーイズ(5〜6歳の子供達)
■駅員(50歳・男性)

あらすじ
父親の居ない家庭で育った上野知恵。
高校を卒業してからは、ネット通販の会社で遅くまで働く毎日。
そんな知恵の癒しは、ギャラクシー王子のポッドキャストを聴くことだった。
大ファンの知恵は、時折ボイスコメントを投稿していた。
すると、突然目の前に巨大な飛行物体と共に、ギャラクシー王子が現れた!
知恵は宇宙船の中で、とても奇妙な光景を目にすることになる。
一体、ギャラクシー王子は何者なのか…!?

(※以下Spotifyリンクよりオーディオドラマのご視聴が可能です。)

癒しのポッドキャスト

知恵(ナレーション:以下NA)【この世の中は、不公平だ。誰のもとで生まれるか。この親ガチャによって、人生の全てが決まってしまう。】

(車が通る音と、『コツコツ』と歩いている音がする。)

知恵(NA)【2030年1月、私はようやく20歳になった。「ってか、まだ20歳。人生って、長いな。」もちろん、成人式には出席していない。
中学生の頃、ギャンブル依存症の父親は家を出て行った。高校を卒業してからは、港にあるネット通販の倉庫会社で、毎日夜遅くまで働いている。】

(『ポチポチ』とスマホを操作する音がする🤳)
(ほんわかとしたエレクトリックピアノの音楽が流れ始める🎵)

ギャラクシー王子(配信)「こんばんは。ギャラクシー王子です😊今日も天の川銀河から配信するよ!今日はね、僕が食べたものを紹介しようと思うんだ。宇宙にはいろんな食べ物があってね、エイリアン丼なんてどうかな?
ちょっと見た目はグロテスクだけど、すっごくプリプリして美味しいんだ!」

知恵(NA)【私の唯一の癒しは、仕事帰りに聴くこのポッドキャスト。パーソナリティは若干12歳で、いまや日本一の人気ポッドキャスター・ギャラクシー王子。幼い頃に両親を亡くし、施設で育った彼は5歳からポッドキャストを配信して人気を集め、現在は夢だった宇宙旅行をしながら配信を行っている。】

ギャラクシー(配信)「みんな、天の川銀河にはいくつお星様があるか知ってる?2000億もあるんだよ。凄いよね。でも、お隣のアンドロメダ銀河には、もっとたくさんあるんだって!宇宙はお星様だらけだから綺麗なんだね。」

知恵(NA)【彼の配信を聴いていると、日々の悩み事等、どうでもよくなってくる。このギャラクシー王子の大ファンである私は、時折、彼のボイスコメント欄に自分の声を投稿している。】

(『ピッ』とスマホの音が鳴った。)
知恵は少し緊張しながら、ボイスコメントの録音を始めた。

知恵「ち、ちえです。あ、あの〜… いつも楽しく聴いています。毎日人生が辛すぎて、その…この世から消えたくなっちゃう事も多いんですけど〜、王子の配信を聴くと本当に心が癒されます。え〜、いつか王子みたいな夢を叶えた人と、あの〜地球での嫌な事を忘れて、宇宙旅行したいなあなんて思っています。」

知恵(NA)【「何を言っているんだ、私は…😔」王子のボイスコメント欄にはいつも視聴者から、何千件もの投稿が寄せられている。私の声なんて彼に届くはずもないのだ。】

(『ポチポチ』とスマホを閉じる操作音がする🤳)
(『コツコツ』と再び歩き始める音が聴こえている。)

知恵(NA)【「はあ、明日も早いし、さっさと家に帰ろうっと。」】

謎の飛行物体!?

(『コツコツ』と歩く音が続いている。)

知恵(NA)【いつも通り、駅のほうを目指して岸壁を歩いていると、上空に光る物体を見つけた。】

(『ドーン』と響くような音が聴こえる。)

知恵(NA)【「あれはなんだろう? 飛行機かな?」】

(段々と、交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』が流れ始める🎵🛸)

知恵(NA)【その光の物体は、徐々に大きくなっていく。「え?…もしかしてこれ、こっちに近づいてきてる? え、ちょ、ちょっと待って。これ飛行機じゃない? え? 何? 何? 何なの、これ? 何がやってきたの?」】

(『ゴオオオォォー!!』と強い風の音が聴こえる。)

知恵 「きゃあ!」
知恵(NA)【物凄い強風に、思わずその場にしゃがみ込む。吹き飛ばされないようになんとか耐えながら、上空を見上げると、巨大な飛行物体が辺りを包み込んでいた!】
知恵 「何? もう、何なの!?」

(『ビューーン!』と眩い光線のような音を鳴らしながら、ドアが開いた。)

知恵(NA)【突然その巨大な飛行物体から、強い光の筋がほとばしる。私は眩しすぎて、思わず目を覆った。】
知恵(NA)【光が少し和らぎ、ようやく目を開けると…なんと、美しい顔立ちをした少年が私の目の前に立っていた。】

ギャラクシー 「ふう。到着、到着。」
知恵     「え、この声、もしかして…」
ギャラクシー 「こんばんは。ギャラクシー王子です。」
知恵     「やっぱり! え? え? どうして?」
ギャラクシー 「まあ、お話は銀河系で。」
知恵     「嘘でしょ…」

(『バタン』と倒れる音がする。)

知恵は驚きのあまり、気絶して倒れてしまった。

不思議な宇宙船

(『ゴーー』と宇宙船内の音が響いている。)

知恵(NA)【気づくと、私は宇宙船の中にいた。無重力で身体がふわふわと浮いている。なんだか気持ちいい。そして目の前には、あの、ギャラクシー王子がいる。】

ギャラクシー「お姉さん、ほら見て見て。」
知恵 「え? あっ…」
知恵(NA)【窓の外を見ると、確かに地球が見える。青くて、丸い。宇宙って本当にあったんだ…】
ギャラクシー「ほら、きれいでしょ?」
知恵「うん。」
ギャラクシー「今、地上から大体500キロメートルのところに来てるんだ。」
知恵「へ〜、そうなんだ。」
ギャラクシー「そうだ!お客さん来た事だし、ギャラクシーカフェオープンしちゃおうかな。お〜い、ボーイズのみんな〜!」

(ここから軽やかなピアノの音楽が流れ始める🎹🎶)
(そして『ふわんふわん』という音がいくつか重なって聴こえてくる。)

知恵(NA)【王子が呼びかけると、小さい子供達が数人ふわふわとやってきた。「ああ、この子供たちが銀河ボーイズか。本当にいたんだ。」王子は施設の子供たちも連れて、宇宙船にやってきているのだ。彼らの手には、銀色の袋が握られていた。】
ギャラクシー「これ、なんだと思う?」
知恵 「え? なんだろう?」

(『コポコポ…シュワシュワー!』と、ビールサーバーのような音がしている🍺)

知恵(NA)【王子は、壁についているビールサーバーのような口から、袋に液体を流し込んでいる。】
ギャラクシー「じゃーん! 紅茶で〜す。こっちはクッキー、すごく美味しいんだよ。」

(『サクッ、むしゃむしゃ…』とクッキーをおいしそうに食べる音が聴こえてくる。)

知恵 「王子が作った紅茶とクッキーを頂きながら、外の地球や星を眺める。世界一贅沢なカフェタイム。ようやく宇宙にいる実感が湧いてきた。ああ、生きてて本当に良かった。」知恵は嬉しそうに、そう口にした。

(『サクサク…』とクッキーを食べる音が続いた後、その音が突然パッと止まった。)

知恵 「え…」

(ここから周波のような不穏な音楽が流れ始める。)

知恵(NA)【優雅なカフェタイムに浸っていたのも束の間、突然窓の外から奇妙な光景が飛び込んできた。なんと若い女性が裸で、真空パックのようなものの上に強い光を帯びた電飾を身に纏い、宇宙空間に浮いていたのだ! 女性の顔色は青ざめていて、息をしている様子はない。】

(『コクッ…』と紅茶を飲む音がしている。)

ギャラクシー「ふぅ…」
知恵(NA)  【王子は、何事もなかったように紅茶を飲んでいる。私は怖くなったが、勇気を振り絞って、王子に聞いてみた。】
知恵     「ギャ、ギャラクシー王子さん。」
ギャラクシー「ん? 何?」
知恵     「あ、あれは何?」
ギャラクシー「ああ、あれ?…お星様だよ。」
知恵     「え?」
ギャラクシー「人はね、死ぬと、お星様になれるんだよ。」
知恵     「は? どういう事?💦」
ギャラクシー 「お姉さんもお星様になる?フフフ。」
        王子は楽しそうに笑いながらそう話している。

(ここから怪しく不気味な音楽が流れ始める。)

知恵(NA)【冗談だとしても、ちっとも笑えない。私はなんだか来てはいけないところに来てしまった気がして、急に帰りたくなった。】
知恵 「あの! 私、帰ります。」
ギャラクシー「え? 帰る? アハハ、何言ってんの? ここ宇宙だよ。どうやって帰るつもり?アハハハハ!😄」王子はとても不気味に笑っている。

知恵(NA)【とにかく気味が悪過ぎて、その場をさろうとした瞬間、銀河ボーイズ達が私を取り囲んだ。】

(『ふわんふわん』と音が集まるように重なって流れている。)

知恵 「何なになに?!💦」
ボーイズA「お姉ちゃん、お星様になろうよ。」
ボーイズB「お姉ちゃん、お星様になろうよ。」
ボーイズC「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

何人ものボーイズ達が、同時に知恵に誘いかけてくる。

知恵 「ちょ、ちょっとやめて!」

(『ガサガサ、ガサガサ…』と音がする。)

知恵(NA)【銀河ボーイズ達は私の衣服を脱がして、真空パックのようなものを着せ、電飾をつけ始める。】
知恵 「嫌だ、絶対に嫌だ!」
知恵(NA)【暴れながら、もう一度窓のほうを見ると、今度は若い女性だけでなく、子供から老人、様々な死体が電飾をつけられた状態で宇宙空間を彷徨っていた。】
知恵 「もう、何? あれ、何なの?😰」
ギャラクシー「あれは…僕のコレクションだよ。」
知恵 「は?」
ギャラクシー「お姉さん、地上にいたら苦しいでしょ? 銀河系でお星様になったら永遠に輝けるんだよ!✨」
知恵 「何言ってんの! この変態!😠」
知恵(NA)【抵抗しようにも無重力で体が思うように動かない。】
知恵(NA)【電飾をつけ終わったボーイズ達は、一斉に私の体を宇宙空間へと押し出した。】
ボーイズA,B,C「(何人かの声で同時に)せ〜の!」

(『ドーーーン!』とドアが開かれ、突き落とされた音が聞こえる。)

知恵 「きゃああああ!!!」
ギャラクシー「バイバ〜イ。」
知恵(NA)【宇宙空間へと放り出された私。宇宙船のほうをみると王子達が笑顔で手を振っている。周りには無数の死体。どんどん息が苦しくなっていく。はあ、このまま死んじゃうんだな、私。】

(『ゴンッ』とぶつかった音がする。)

知恵(NA)【と、その時、突然誰かにぶつかった。ぶつかった死体の顔を見ると、見覚えのあるおじさんの顔。え、この顔、もしかして…】

(ここから光のような神妙な音が流れはじめる。)

知恵「…お父さん?」
知恵(NA)【間違いない父親だ。え、なんでここにいるの? 父親の手を見ると何か紙のような物が何枚か握り締められている。】
知恵「え? 何だろう?」
知恵(NA)【体をぐるっと反転させ。父親の持っていたものを確認すると、そこには「中山11レース、第66回有馬記念・三連単」という文字が見える。「え、これ馬券?」】
知恵(NA)【お父さん、宇宙に来てまで、馬券を握りしめてたの? フッ…。え?噓でしょ? 馬鹿じゃん…。本当に馬鹿だよ… ははは、あはははは…】
知恵は飽きれたように、力無く笑っていた。

知恵の結末

(『ガタンゴトン…』と電車が走っている音がする。)

(しばらくすると、『トントン!』と肩を叩く音が鳴った。)

駅員 「お姉さん!」
知恵 「…ははは」

(『トントントン!』と再び音が鳴っている。)

駅員 「ちょっと、お姉さん!」
   先ほどよりも大きな声で駅員さんが呼び掛ける。
知恵 「…は! え?」
駅員 「お姉さん…。もう終電いっちゃいましたよ。」
知恵 「あ、…すいません。」

知恵(NA)【なんだ、夢か。良かった。】

(ここでは穏やかなギターの音色が流れている✨)

知恵(NA)【しっかし、お父さん間抜けな姿だったなあ。マジで笑えるんだけど… あはははは…】

(『ポチポチ』とスマホを操作する音と、ほんわかとしたエレクトリックピアノの音楽が流れ始める🎵)

ギャラクシー(配信)「みんな、今日の配信も楽しんでくれたかな? 何か嫌なことがあった日は、空を見上げてみてね。そんな日でも、お星様はたくさんあって綺麗だから。僕は明日もここ、天の川銀河から配信するよ。じゃあね、バイバ〜イ!」


女性の声「きゃー--!!」

《 おしまい 》

作品制作キャスト・スタッフ

■上野知恵・ギャラクシー王子・銀河ボーイズ:伊藤るび
■駅員:ツユーキー
■脚本・監督:松本大樹

■脚本編集/記事掲載:ニーナ
■イラスト:ejiman


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