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読書感想文 小野寺史宜 奇跡集

私、人間観察好きなんですよ。
電車に乗っていると、色々な人がいて、この人たちが皆どこかへ帰っていくのかなあって思うと、なんだかおかしくって仕方がない。
ちょっとユニークな人を見つけて、想像を膨らましたりするのが結構好きなんです。
まあ、ぼんやり座っているおばちゃんが、自分のことで変な妄想しているだなんて相手の人はかけらも思っていないだろうけれど、バレたら気持ち悪いだろうなあ……

この作品は電車の中で乗り会った乗客の人生が、少しづつ影響を与え合っていて奇跡を起こしているっていう、短編集です。


ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

あらすじ

青戸条哉の奇跡 竜を放つ
 大学生の青戸は、朝の電車の中でお腹が急降下! もうしゃがみこまなければヤバい状態だ。しゃがもうとしたとき、隣の女性がしゃがみこんでしまい、しゃがむタイミングを失ってしまった。次の駅でトイレに行った青戸は、戻ってきたホームのベンチにしゃがみこんだ女性が座っているのを見て声をかける……

大野柑奈の奇跡 情を放つ
 仕事で朝の電車に乗っていた柑奈。前に立っていた女性がしゃがみこんでしまう。席を変わろうとしたが断られ、女性は次の駅で降りていった。仕事に遅れるかもしれないが、気になった柑奈は一駅戻って女性の側に行くが、すでに別の男性が声をかけていたようだ。安心した柑奈は仕事に向かうが……

東原達人の奇跡 銃を放つ
 刑事の東原は、朝の電車で、銃の密造にかかわっている男黒瀬を尾行していた。電車を降りて黒瀬を尾行したのだが、赤ちゃんを抱えてはだしで走る女性を見かけ……

赤沢道香の奇跡 今日を放つ
 道香は朝の電車でデートに向かうところだ。女性が体を触られる現場を目にする。女性が触った人ではない男性を責めて騒ぎになっている。男性が捕まれば痴漢の冤罪だ。迷う道香は……

小見太平の奇跡 ニューを放つ
 小見は、食品会社の宣伝部だが、仕事で失敗をして代替案がないまま朝の電車で出勤しようとしている。そんな時、若い女性の電話する声を聞く。自分の知らない世間の流行を耳にした小見は……

西村琴子の奇跡 業を放つ
 四十四歳の琴子は、朝の電車で恋人の浮気相手を尾行していた。痴漢騒ぎが起き、浮気相手が痴漢の冤罪現場を見たと誰かに電話をしているのを聞いてそのまま尾行を続けるが、浮気相手が会った相手は……

黒瀬悦生の奇跡 空を放つ
 割のいい仕事と言われて、銃の密造にかかわることになった黒瀬は好きな人ができて足を洗いたい。だが、洗わせてもらえない。追い詰められた黒瀬は……

感想

同じ朝の通勤電車。混んでいる。
同じ車両に乗り合わせた、縁もゆかりもない人々。
下痢で冷や汗を流している大学生、余命わずかな父に後悔にも似た複雑な思いを抱えている女性、尾行する警察官、尾行される密造銃の運び屋、痴漢を目撃してしまう女性、仕事で行き詰っている男、浮気相手を尾行する女。
七人の人たちの「奇跡」を描いている。
それぞれの視点から見た風景と、それぞれの人生が、やわらかく絡み合っている。

「奇跡」というと何か特別なことのように思えるけれど、七人が同じ電車に乗ったのも奇跡なんだと、言われている気がする。
昔、さだまさしさんが、今の地球上、同じ時代、同じ場所に存在できただけで奇跡だよというようなニュアンスのことをおっしゃっていて、本当にそうだよなあって感じたことがあった。

自分とは何の関係もない人が、どこかでつながっていたりもする。
面白いもので、全然知らない人だと思っていた人が、どこかでつながっていたことを知ると、突然その人が近しい、大切な存在に思えたりする。
でも、知っていても、知らなくても、その人とつながりがあった事実は変えようがない。なら、知っても、知らなくても、近しい大切な人であるはず。
だったらすべての見知らぬ人が、近しい大切な人かもしれない。

同じ時代、同じ国、同じ電車の中に存在したすべての人との出会いが
「奇跡」
なのだとすれば、奇跡的に出会った人との関係を大切にしなくちゃいけないと感じる。
誰かに親切にする、誰かに親切にされる。
そんな繰り返しが人の日常を豊かにしてくれるのではないかしら。
誰かが困っていたら、考えることなく助ける。そんな自然な「親切心」って誰の心の中にもあるんだと感じさせてくれる、やさしい物語でした。

#読書の秋2022 #奇跡集

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