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読書感想文 MR

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル MR
作者   久坂部羊
出版社  幻冬舎

あらすじ

MRというのは製薬会社の営業のこと。薬に関する知識も豊富で医者にアドバイスできる程だが、医者はプライドが高く扱いにくい人が多い。
天保薬品の堺営業所所長紀尾中は患者ファーストの理想主義者。優秀なMRだが、製薬会社の利益と自分のポリシーが反することもあり対応に悩むことが多い。
外資タウロスの営業課長鮫島は会社の利益の為なら不正も平気な営利主義者。紀尾中とは真逆の人間だ。
診察ガイドラインの第一選択に収載されると売り上げが莫大なものになるから製薬会社は必死だ。天保薬品のバスター5とタウロスジャパンのグリンガはガイドライン収載を巡って激しいバトルを繰り広げる。タウロスは様々な方法を用いて天保薬品を妨害する。おべっかに弱い医者、良心的な医者、お金の欲しい医者、研究第一の医者。医者同志の競争、会社内での地位争い。
紀尾中の部下たちも個性豊かな人ばかり。
紀尾中は自分のポリシーを貫いたまま、厳しい競争に勝てるのか?
そして一難去ってまた一難。
天保薬品が高額な研究費を出している癌の治療薬安富ワクチンは紀尾中がおす画期的な癌の治療薬だがまだ治験にこぎつけることが出来ず研究費ばかりがかさんでいる。認知症予防効果のある降圧剤に研究費を使いたい五十川は安富ワクチンを切り捨て、自分の推す降圧剤に研究費を使いたいと社内で根回しを始める。潔癖で紀尾中を評価している常務を味方につける為、紀尾中個人のスキャンダルを探す五十川とその部下。
特定支援研究費を獲得できるのは、安富ワクチンか新しい降圧剤か?
社内に渦巻く競争と裏切り。
最後に笑うのは?

感想

医療版半沢直樹といわれるだけあって、まさに流れは半沢直樹。
作者久坂部羊さんは、現役の医師でもあるので専門的な知識も豊富で読んでいると勉強になる。

通っている小説教室で以前久坂部羊さんの講座があった。高校生のころから小説家になりたくてとにかく純文学を色々書いておられたという。外科のお医者さんだったけれど小説が書ける閑職が良いといって、海外の大使館の医師に応募したという変わり種。日本に戻ってからは、健康診断とかされているようなことをおっしゃっていた気がするが……様々な医師が登場するが、もしかしたら久坂部さんの頭の中にはモデルになる人がいたりして……

38の章に分かれていて、すらすら読めて読みやすい。
1章ごとにテレビドラマになりそうである。

個性的な部下たち、嫌なライバル会社、社内の出世競争、医者へのおべっか、おべっかに喜ぶ医者、おべっかを嫌う医者。
紀尾中が卑怯な人たちのせいで窮地に陥り、工夫と努力で挽回する。
その痛快さはまさに医療版半沢直樹。
エンタメ小説としてもとても面白い小説である。

敵役がものすごく卑怯でいやらしく、不愉快でむずむずする。
そして、それがやたらとリアルなのだ。ああ、恐ろしい。
そんな身勝手な連中を、良心ある紀尾中が逆襲する。
清廉な逆襲ではない場合もあるけれど、もはや毒をもって毒を制すというところか。

だが紀尾中の生きる世界の当たり前が、とても怖い。
患者がどんな病気になってくれると嬉しいか?という雑談で
「重症の病気、薬をたくさん使ってくれるから」
「治らん病気。ずっと薬をのんでくれる」
「高血圧や糖尿病の慢性的な病気はリピーターだし」
「エイズのキャリアもいい」
と悪意もなく盛り上がり、結局ブロックバスター、年間の売り上げが1000億円以上という薬が必要だと話す。
この薬になるために、ガイドラインに収載される必要があるわけだ。
高血圧やコレステロールの基準値の変えるのも嬉しいと話す。不安になった患者が喜んで薬を飲んで安心してくれるし売り上げが伸びるからだ。

製薬会社ではおそらく何の悪気もなく交わされるこんな会話は小説の話ではなく現実なのだろうなと推測する。

コロナ禍で世界中でワクチンの争奪戦が行われている。
この本を読んでいると、ワクチンの製薬会社は笑いが止まらないだろうなあと感じた。小説なのか、現実なのか、現在の人類は製薬会社の良心に命を預けている気がする。
命を救うのは医者だけではない。
MRという人の命を左右する仕事人の良心が、痛快に駆け抜け、スカッと着地する。そんな、作品だった。

#電本フェス2021秋読書 #MR


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