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舞台感想 宝塚歌劇星組公演 Le Rouge et le Noir 赤と黒

宝塚歌劇星組公演 Le Rouge et le Noir 赤と黒を見てまいりました。

スタンダールの「赤と黒」は、三年前に御園座の月組公演を拝見しました。

今回の赤と黒は、フレンチロックミュージカル。
「1789」「ロックオペラ モーツァルト」を手掛けたフランスのプロデューサーによる「ロックオペラ 赤と黒」を谷貴矢先生が潤色、演出したものです。
星組20名と英真さん、紫門さんという少人数での舞台とは思えない程立体感のある素晴らしい作品で、大劇場で観たかったよ!って感じました。

柴田先生の作品では、二番手の男役にふさわしい役がないので、御園座では当時二番手の月城かなとさんは、二役されていました。
ですが、このロックオペラ赤と黒は、原作にはないジェロニモというストーリーテラーで歌手の男が登場します。
暁千星さんが演じておられるのですが、この存在がとても良いのです。
希沙薫さん演じるルージュと碧海さりおさん演じるノワールを従えて、道化のように観客を物語に誘いながら、物語の中にも溶け込む謎めいた男です。

ネタバレありの舞台感想です。

ジェロニモが登場し、観客をいじりながら赤と黒の世界に入っていくという冒頭から「洒落てるわあっ」てワクワクしました。

そして、家庭教師として雇われたジュリアンを、大工の息子なら逆に言葉を教えなければいけないのじゃないかと、ヴァルノがバカにします。
自分はラテン語で聖書を暗唱できると言ったジュリアンが「知識こそが武器」を歌いだすと、もう、観客は二百年前の物語の中へと吸い込まれていきます。

この作品の世界観とか、装置とか、演出とか、すべて私好みでした。

「赤と黒」といえば、野心あふれる若者ジュリアンが、女性を利用しながら出世し、転落するという物語だと思うのですが、礼ジュリアンからは「野心」があまり感じられませんでした。(あくまで、私の感想です)
貧しい育ちの自分を見下すブルジョワへの反感や悔しさから出世したいと願う感情は「野心」よりももっと純粋な人としての誇りのようなものに見えました。

ルイーズから身分も似合いのエリザをすすめられる悔しさに、本心を隠していられなくなって、手にキスをした。それは、ルイーズを攻略しようという企みではなく本心だという風に見えました。
ナポレオンを尊敬するジュリアンは、ルイーズを戦いの相手とし手に入れようと考えている様子もあるのですが、むしろそれは自分の本心を偽ってそう思い込もうとしているようにも思えました。
エリザを勧めながらも、聖職者になりたいと言うジュリアンの言葉にホッとするルイーズ。そんな自分の感情にルイーズ自身もハッとしたのではないでしょうか。
最初から、礼ジュリアンはルイーズのことを「利用」する為ではなく、本当に愛してしまっていた。有沙ルイーズもまた……って感じがしました。
二人とも身分違いはわかっているし、許されないことだと知っている。
でも「禁断」こそが二人の愛に火をつけてしまった……

貞淑な妻ルイーズ、年上の落ち着いた女性、子供思いの常識的な妻が有沙さんにぴったりあっています。
でもルイーズの一見地味な黒のドレスにスリットが入っていまして、その裏地が赤なんですね。時折、そのスリットから真っ白なおみ足と裏地の赤が覗くのがなまめかしくって、貞淑な妻の裏の顔が見たような気分になります。

物語はテンポよく進んでいくきます。
礼ジュリアンの歌で、暁ジェロニモと男役たちが踊るシーンが圧巻!
もう、かっこよくって、かっこよくって、息するのを忘れます。

礼ジュリアンはとにかく、純粋で無垢に見えたんです。(私には)
ナポレオンに心酔する純粋で努力家の青年ジュリアン。
この純粋さが二幕でマチルドの心をとらえる「気高さ」につながっているようにも思えました。
純粋に愛したルイーズが、身分や世間体を守るためにジュリアンを裏切り、追い出されたことに初めて復讐の心が芽生えるのだけれど……

二幕はロックミュージカルならではの幕開きです。
「退屈」を歌う詩ちづるちゃん演じるマチルドは、苦労知らずのわがまま娘の若さが眩しいばかりに美しいです。
貴族のパーティーとは思えない、やんちゃでロックな雰囲気が二幕もまたどうなるんだろうって冒頭からワクワクさせてもらえます。

小桜ほのかさん演じるヴァルノ夫人は見せ場が少なくて残念だなあって思っていたら「宝石こそわが勲章」の夫婦デュエットで本領発揮! 
夫人の欲深さ、人間臭さが見事に歌い上げられていて、痛快でした。

内容的には原作と同じで、まあ、あれやこれやあって……
ジュリアンはルイーズを撃ち、捕えられる。
マチルドの根回しで、死刑になることはないはずなのに……

ジュリアンは自分の罪を自分で認めて、自ら断頭台に消えていく。
「真実の愛」に気づいた彼は、命を捨てることで愛に殉じたのです。

何百年も前から「愛」の物語は人の心を揺さぶり現在に至りますよね。
特に「愛」に「命」をかけるという自己犠牲の愛は、残された者の心を支配してしまうように思います。
残された者が死ぬまで背負い、物語として後の世の人々の心までしばりつけてしまう。
そんな「愛」の物語。

ジュリアンが愛した、そして翻弄した女たちはそれぞれに自分のやり方で始末をつけます。
道化のようなジェロニモが言います。
「愛」の物語は今も続いている……

一度しか観ていませんし、この感想は私の頭の中で私流に脳内変換されているものなので、不正確な部分も多々あると思いますが、ま、こんな感じでした。

ふわふわと影のように見える舞台上のコロスたちもこの物語を幻想的に見せていて、とても良かったです。

いやあ、よかった。
音楽がロックなのがよかった。演じる方は相当難しいと思うのだけど、見事に歌い切り、踊り切り、芝居しておられたのが本当にすごい。
「さすがおフランス製。洒落てるわあ」などと、言っておらずに、宝塚歌劇もオリジナルの「ロックオペラ」を作るべし!!!
若手の演出家のアイデアで原作なし、宝塚だけのオリジナルだって作れるはずだと思うんですよね。

そんな、作品を心待ちにしながら、感想を終わります。
いやあ、よかったなあ~

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