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読書感想文 魂手形

まだ読んでない方に書店の推薦コメント風にお勧めするなら
「風変わりな百物語の聞き手小旦那富次郎。不思議な物語を聞いては絵にして聞き捨てる。不思議な太鼓、夫に似た子を産む妻の念、酷い殺され方をして彷徨う魂。何かが見えるか見えないか? それはあなた次第かも……」

タイトル 魂手形
作者   宮部みゆき
出版社  角川書店

あらすじ

江戸は神田にある袋物屋の三島屋の次男坊富次郎は風変わりな百物語の聞き手だ。三島屋の百物語は語り手一人、聞き手も一人という風変わりな物。そして「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」と決まっている。
富次郎は話を聞くとそれを元に墨絵を書き、「あやかし草紙」と名付けた箱に入れて聞き捨てとしている。

火焔太鼓
 大加持藩では火事が少ない。そして起こると「お太鼓様」を鳴らす。火消のやる気を起こすと言われる太鼓だったが、本当は神器で太鼓が火を喰うのだった。お太鼓様の中には、ぬし様と呼ばれる生き物の体の一部が入っている。ぬし様とはいったい何者なのか? 神か? 人か? 
一途の念
 富次郎のお気に入りの団子屋台のおみよ。おみよの母親お夏の物語。
仲居のお夏と板さんの伊佐治は美男美女の夫婦だったが、伊佐治が体調を崩して働けなくなる。お夏が春を売って生活することになると三人の男の子が生まれる。様々な客が自分の胤だと言い張るがどの子も伊佐治そっくりの美しい子で客はあきらめた。だが、三人の男の子の顔はある時を境に全く違うものになった……
魂手形
 富次郎のいとこおちかは許嫁を殺された。殺した男はおちかに横恋慕していた。辛い思いをしたおちかが嫁に行き赤ん坊が出来て富次郎たちは大喜びだ。そんな時、百物語を語りに粋な老人吉富が現れる。
木賃宿の息子吉富は、白い帷子を着た女が天井に張り付いているのを見て気絶した。それは宿の客七之助の連れの魂だった。
七之助は現世で彷徨う魂の行き先を見つけて送る水夫だった。吉富はひどい殺され方をして彷徨っている魂の水面を救うために協力した話をして帰る。
いつものように吉富の話を絵に描いていた富次郎は、話に出てきたような亡魂を見る。その魂はおちかに関わりのある魂のようだが……

感想

火焔太鼓、一途の念までは、不思議だけれど優しいお話だったけれど、表題作の魂手形は、なかなかぞっとさせる終わり方。
魂なんぞ、見えない性質の方が幸せですねえ。
時代は江戸の物語。でも、おちかの許嫁が殺され、犯人が殺した理由をおちかが自分に気のあるそぶりをしたからだというのも現代にもありそう。そうやって、自分の行為を人のせいにするのも現代風だ。
亡魂の水面が、吉富が嫁をもらうことに嫉妬して、嫁を貰う人が他の女に優しくしてはダメだと言うところなどもどこか恐ろしい。
人の嫉妬のあさましさや、お金の為にする犯罪。
舞台は江戸でも、発想は現代じゃないかと思える。

先日も、未成年による残酷な殺人放火があった。一方的な恋愛感情によるものらしいと報道されている。あるいは、元妻をめった刺しで殺した男がいた。あんな残酷な事件のニュースを見ていると、娘達を残して逝ったご両親や、別れた夫に殺された妻の魂が成仏なんてできそうにないんじゃないかしら。彷徨っていてもおかしくはないように感じる。
魂手形を持った水夫が、魂を行くべき場所へとつれていくのだろうか?
ふと、そんなこと思ってしまった。

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