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未来に恋焦がれて

fromis_9の2ndミニアルバム『To.Day』を今年も聴いている。6月5日、季節で言えば初夏にリリースされたミニアルバムなのにも関わらず、なぜか毎年この季節にどうしようもなく聴きたくなってしまう。fromis_9の楽曲は季節を問わず年中聴いてはいるが、この『To.Day』に限ってはやはり春がとても似合う、春に聴くべきミニアルバムだと確信できる何かがある。

明るく溌溂とした彼女達のボーカルや、ポジティヴなエネルギーに満ち溢れたサウンド、ワクワクと不安が入り混じった絶妙な感情と若さゆえの全能感を帯びた歌詞の世界観は、まさに新しい何かが始まろうとしている春に相応しい内容になっているのは勿論なのだが、『To.Day』を新しい何がか動き出すこの春の季節に無性に聴きたくなるのはこのミニアルバムには「未来への希望」が込められているからなのだと感じる。

この『To.Day』に収録されている楽曲の中の主人公である少女は圧倒的に"未来"に恋をしている。未来の自分に恋焦がれている。未来の自分に出逢えることを待ち望んでいる。その未来に恋焦がれるどうしようもない程に眩しい光は、凍える冬が終わり世界に差し込み始めた眩しくも温かい春の陽射しに何処か似ているようにも思う。不確定で刹那的な人生、進んで行く先はどうなるか分からない、それでも未来だけは光を放ってずっとそこで待ってくれている。『To.Day』という作品をどうしようもなく愛おしく感じるのは、ここには確かな未来が、確かな希望があるからなのだと思う。そしてそれを私が信じているから、信じたいからなのだとも思う。眩い光に包まれた未来の先をしっかりと見つめ、その光の中へと進んでいく彼女達が抱く不安とワクワクが入り混じった若さ故の複雑な感情、その一瞬の青春を完璧なまでに切り取ったしたミニアルバム、それがこの『To.Day』なのではないだろうか。

そもそも私が『To.Day』の収録曲陣(ひいては初期のfromis_9の楽曲陣)を"未来(の自分)に恋焦がれる曲"と解釈し始めたのは「Blind Letter」を聴いて以降のことだ。それまではベタではあるが"恋に恋する少女の曲"というストレートな解釈で聴いていたのだが、この「Blind Letter」を聴いて以降その解釈は一変した。

『from our Memento Box』収録の「Blind Letter」は宛名不明の手紙、そこに書かれた知らない文字に何故か惹かれて心がワクワクしてしまう楽曲だ。私の解釈ではこの手紙の送り主は未来の自分だ。楽曲の主人公が惹かれているのは未来の自分自身である。まだ見ぬ未来の自分に想いを馳せる曲、自分の中に新しい感情が漣のように押し寄せてくる曲、それがこの「Blind Letter」なのだ。この曲の中で歌われている「君がどこにいても 私は待ってるから」「終わりのない想像の中にいるあなたに必ず逢いにいくね」という歌詞は、初期のfromis_9の曲の中で歌われていたメッセージと重なるものがあるという事実は決して偶然や憶測ではなく、明確な意図をもって接続されたものではないだろうか。

以前書いた「Stay This Way」のレビューの記事で『Midnight Guest』『from our Memento Box』とfromis_9の過去作品との接続点を散々語らせてもらっった。(未読の方は宜しければどうぞ。記事の後半でそういったことを長々と書いています)

『Midnight Guest』と『from our Memento Box』は歌詞やコンセプトをより細かに紐解けば紐解くほど、そういった過去の作品と現在の作品との類似点や接続点が沢山見つかってくる。そして紐解けば紐解くほどfromis_9の楽曲の中に登場する主人公をより深く理解できるし、何よりfromis_9というグループ自体を深く理解できるように作られている。これはデビューから一貫してハン・ソンスがプロデュースをしているからこそ出来る仕掛けであって(現在はエグゼクティブ・プロデューサー)、ハン・ソンスがどれだけfromis_9を大切に思っているかが伝わってくるプロデュースワークとも言える。今のfromis_9にはどんな楽曲とどんな言葉が必要なのか、そしてそれはどういった形であるべきなのか。それを考えに考え抜きベストの形でfromis_9に託す。それは最初から彼女達のことを見続け、fromis_9のキャリアを深く理解していなければ出来ないプロデュースであることは言うまでもない。(デビューからずっと見てるんだから本当の娘たちみたいなものだよな…ハン・ソンス、つい感情的になってPLEDISのことボロクソに言ってごめんな…)

未来に恋焦がれていた少女たちは成長し大人になった。あの時に恋焦がれていた未来の自分に逢うことができた。それでもまだその先の未来の自分の姿を想像してワクワクしている。たとえ何があろうとも、どんな困難が行く手を阻もうとも、自分たちの未来に期待してひたむきに進み続けるfromis_9の眼差しの確かさに、そしてその未来への希望を、楽曲として、プロデュースとして彼女達に託すハン・ソンスの愛の確かさに、これを書きながら改めて涙が出てきてしまっている。(ハン・ソンス本当にありがとう…ファンミも単コンもシーグリもペンラもフルアルバムもありがとね…fromis_9をこれからも何卒宜しくお願い申し上げます….)


fromis_9の楽曲の中でも特に好きな「THINK OF YOU」、歌詞をよく見れば「Blind Letter」と全く同じことを歌っているのが解る。同じ過ぎて驚く。少女だった時の「THINK OF YOU」、そして大人になってからの「Blind Letter」、歌詞や語り口の絶妙な違いで彼女達の成長を明確に描き分けできているし、フレッシュでパワフルな「THINK OF YOU」とレイドバックしたムーディーな「Blind Letter」とサウンド面でも彼女達の心の中の変化を明確に演出できているのも、ぐうの音も出ない程に素晴らしい。こういうコアなfloverであれば気付けるような仕掛けが施されているのはやはりファンとしては涙が出るほどに嬉しいこと。

こちらも私がfromis_9の楽曲の中でも特に好きな「FIRST LOVE」。子供の頃を思い返せば、常に思い焦がれていたのは誰でもない"未来の自分"だった気がする。将来は何がしたいだとか、将来は何になりたいだとか、そんな当てもない漠然とした未来を想像してはそれが確かな未来の自分の姿であると何処かで確信して日々を過ごしていた記憶がある。「初恋の人は未来の自分である」と言い切ってしまうのは流石に拡大解釈過ぎるとも思うが、「恋」とは人を思い慕うことなのであながち間違いではないだろう。何よりそういう考え方ができること自体がちょと素敵なことなのかもしれない。

そして明確に自分たちの"未来"のことを歌っている大名曲こと「CLOVER」はファンであれば涙なしには聴けない楽曲だ。特にブリッジの"幸運ではなく幸せを願って"というフレーズは聴く度に涙腺を崩壊させられる。

fromis_9はデビュー当時から"実力もないのに運良くデビューしたグループ""簡単にデビューしたいがためにオーディションに参加したやつら"と批判され続けていたらしく(セロム談)、fromis_9はそんな批判を撥ね退ける為に、fromis_9が偶然ではなく必然でデビューしたグループであると証明する為に今もひたすら走り続けている。その当時の彼女達が直面していた事情に思いを馳せると、この「CLOVER」という曲が、彼女達に渡された"幸運ではなく幸せを願って"という歌詞が、いかに愛に溢れたものであるかを思い知って、やはり涙なしでは聴くことができない。


デビューから一貫して未来に向かって走り続けているfromis_9。度重なる困難にもその足を止めることなく、眩しい光が差す方を迷いなく見つめ続けている彼女たちの姿にどうしようもなく惹かれている自分がいる。救われている自分がいる。何があろうと未来はそこに在り続ける、不確定な人生の中でその確かさだけは信じる価値があると彼女達はその身をもって証明し続けてくれている。

もう直ぐ4月が来る。彼女達も戻ってくるだろう。新しいfromis_9の始まりを告げる1stフルアルバムの成功と、新たな未来に向かって歩き始めるfromis_9の旅路がこれまで以上に幸多からんことを祈って。



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