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永遠はないと知っていても

fromis_9「Stay This Way」のレビューです。

fromis_9の「Stay This Way」、近年稀にみる超絶エモソングである。MV初見時こそ「WE GO」から1年越しに放たれたプロミスナインの直球サマーソングだ!最高!とこの時点でもしっかり感動したが、その後歌詞の内容やMusic Videoに隠されたメッセージを自分なりに読み解いていくにつれ、この曲が単なるサマーソングではなく、人生の儚さと時間の残酷さ、それ故の大切な人が目の前にいる今この瞬間の愛おしさや想い出の尊さを歌った、祈りと願いの歌であると分かってとんでもなく号泣してしまった。それに気付いて以降はこのMVをもう涙なしで見る事はもう出来ない。この映像に映された全ての瞬間はいつかは消えて無くなってしまうものだし、成長し大人になった彼女達はその事に気付いてしまったからだ。
 

イナギョンさん

それが最も顕著に表れている歌詞が「私たちはお互いを照らし合いながら 踊っているの 今日が最後であるかのように」だろう。ここまで約2分半、"如何にもこれがプロミのサマーソングでござい"といったようなフレッシュで楽し気な映像が続くものだから、てっきりこちらも直球のサマーソングだと思っていたが、ここで急にネラバラシをされて思わずドキッとしてしまう。彼女達は知っていたのだ、永遠など本当は無いという事に、この瞬間が、今日この日が最後になるかもしれない事に。だからこそ彼女達は願うように”stay this way”と歌い、他の事は全て忘れて自由に踊り続ける。今この瞬間が永遠に続いて欲しいと祈るように、今この瞬間を忘れないように、そして過ぎ去っていく時間の流れに抗うように。月が特に綺麗に見えるのも、今日この日が人生において特別な日であって、最後の日になるかもしれないと知ってしまったからだ。


タイトル「Stay This Way」に込められた意味

また"stay this way"と"stay with me"のフレーズが繰り返されるバランスにも彼女達が成長し大人になった事がよく表現されていると思う。これまでの無邪気な子供であったfromis_9のままであったらおそらくこの楽曲のタイトルは「Stay With Me」になっていたのではないだろうか。しかしながら成長し大人になってしまった彼女達は知ってしまった。"stay with me"が永遠ではないという事を。そしてそれを知ってしまったからにはこれまで通り無邪気にこの言葉を口にする事はできない。(1番のサビ中で2回繰り返されるが"Stay This Wayに比べて圧倒的に少ない)。

※6/30追記
この記事を書いた後に公開されたコレオを見た所、1サビ中の"stay with me"は心を押さえる振りが当てられているのでここでの"stay with me"は心で思っている事という解釈がやはり出来そうです。

"stay with me"の振り付け


だからこそ"stay with me"という言葉を心の裏に隠し"stay this way"というフレーズが繰り返されるのではないだろうか。"stay this way"の裏に"stay with me"という言葉を隠しているという点は映像にもしっかり刻まれていて、1サビ終わりの"stay this way"のフレーズで"stay with me"という文字が書かれた紙の船のショットが映される所は特に示唆的だと思う。また紙で作った船は「直ぐに沈んでしまうもの=いつか終わってしまうもの」とも解釈できて、ここにも"stay with me"が永遠ではないという事が示唆されている。

紙で作った船

しかしながら"stay with me"という言葉と想いは溢れ出る事となる。 「今日が最後であるかのように」のフレーズが歌われたの後のアウトロの展開でこれまでの"stay this way"と"stay with me"のバランスが逆転し、"stay with me"というフレーズがひたすら繰り返される事になる。想いは溢れてしまうのだ。それまでひた隠してきた言葉は、今日が最後の日かもしれないと改めて気付いてしまった後に、どうしようもない愛おしさと共に溢れ出てしまう。永遠は無いと知っていても、それでも伝えたい想いがあるのだ。永遠は無いと知っているからこそ。この瞬間を永遠にしたいと願うからこそ。

 ボーカル面でのアプローチで言うとサマーソングなのにも関わらずサビの約半分が裏声寄りのハイノートで歌われているのも印象的だ。ハイノートと言うよりも今にも消え入りそうな儚いトーンで歌っているのも、前述したような楽曲の解釈であれば非常に納得できる。美しくも切なく響く儚い歌声はまさにいつかは消えてしまう青春そのものだし、その青春を美しくも切なく儚いものであると体現できるのもfromis_9ならではである。

 更に言うと"stay this way"が掛け声的なシンガロングできるフレーズになっているのも印象的だ。何故ならこの"stay this way"は彼女達fromis_9にとっても、そしてfloverにとっても願いの言葉であるからだ。例えばこのフレーズを彼女達がユニゾンする事で、そしてこのフレーズが例えばLIVEでfloverによってシンガロングされる事によって、願いは祈りとなる。過ぎ去っていく青春と目の前にいる人との今この瞬間を繋ぎ止める為の唯一の手段がこの"stay this way"の言葉なのだ。だからこそこのフレーズは掛け声の形で歌唱されているのではないだろうか。
※この"stay this way"が掛け声的な歌唱になっている事の追加の考察を「過去曲との繋がり」に追記しました。
    

Music Videoに関して

サマーソングなのにも関わらず、ひたすら切なさがドライヴしていくMusic Videoも素晴らしい。冒頭のジウォンの映像からも読み取れる通り、その後に続くMVの本編は今回のコンセプトである”即興旅行”に行った時の記憶で構成された映像だと推測される。一見してビジュアル最強軍団らしく顔面押しの力業MVとしても見れるが、これが記憶の断片によって構成されたモンタージュ映像だと解釈すればまた違う見え方が出来てくる。例えば、今日が最後の日になるかもしれないと気付いていて、目の前にいる大切な人との今この瞬間を永遠のものにしようと強く記憶に焼き付けようとするとすればどうだろうか。おそらく記憶に強く残るのは目の前にいるその人の表情であり、その人の姿ではないかと思う。そういう解釈でこのMVを見てみると、ビジュアル押し的な側面とはまた違った美しさが立ち上がってくる。もし私が大切な人との想い出を映像として思い出すとしたら、その映像はその人の一番魅力的な表情が刻まれたものであって欲しいと思う。そしてこのMVにはそれがまさしく刻まれている。

サマーソングでかつサイパンの海に行っているにも関わらず極端に輝度や彩度を抑えたような抑制されたグレーディングでの仕上がりもこの曲の切なさをドライヴさせるのに一役買っている。これまで前述してきたようなこの楽曲の解釈をもった上で見ると余計に切ない。曲中の歌詞にもあるようにまさしく"夢のよう"な手触りの映像になっていてエモい。この”楽しさ”の裏側にある”切なさ”を体現できるのも順風満帆ではなかったキャリアを積んできたfromis_9だからこそである。  

ちなみに前述した「紙で作った船」同様に、”いつか来る終わり”を想起させるようなメタファーは他にも登場する。例えば、MVの冒頭でバラバラに飛んでいってしまう9個の風船や、一瞬で消えてしまうシャボン玉もそうだろう。映像に映るあらゆるものが楽曲の切なさをドライヴするものとして機能している。ヤバい。正直本当に泣いて見れなくなってしまっている。回さないといけないのに。どうすればいいんだ。

※6/30追記

再度登場するイナギョンさん

ナギョン(ジウォンも)が持っているガラスの玉、前述してきたような解釈から何のメタファーかを想像するとやはり壊れやすいものとしての2人の関係のメタファーだろうか。もしくはこれが水晶玉であれば未来のメタファーとも解釈できるし、終わりを知りながらも今が永遠に続いている未来への願いとしての水晶玉であるとするのであればそれは言葉にし尽くせない程に尊い。何よりも何かを悟った上で全てを受け入れたようなナギョンのこの表情たるやである。

So, last forever Stay this way

 そして映像は「So, last forever Stay this way」というフレーズと共にfromis_9が横一列に並び寄り添ったショットで幕を閉じる。これが願いでなくて何なのか。これがfromis_9にとっての願いであり、floverにとっての願いだ。永遠はない。人生は儚い。青春は一瞬だ。だからこそ今この瞬間を永遠のものとして繋ぎ止めようとするこの「Stay This Way」はfromis_9にとっても、floverにとっても願いの言葉となるのではないだろうか。最後であるかもしれない今日を永遠にするために。

 過去曲との繋がり

余談ではあるが過去楽曲との文脈的な繋がりについて。前作のタイトルトラック「DM」はプレデビュー曲「Glass Shoes」のある意味続編的な繋がりを持っていた楽曲だった。この2曲が両方とも時計の秒針の音を使ったイントロで始まる時点で繋がりがある事は明確だが、「Glass Shoes」が深夜0時までの物語に対し「DM」が深夜0時からの物語である事、また「Glass Shoes」が恋する相手を待つ物語であるのに対し「DM」は恋する相手に直接想いを伝える物語である事、深夜0時を起点にこの2曲を接続し子供から大人への成長を描く事によって、fromis_9が成長型のアイドルである事を補完する試みは大変素晴らしかったと思う。 

では今回の「Stay This Way」はどうかというと「Glass Shoes」以降のタイトル曲である「To Heart」と「FUN!」、更には「WE GO」、「DM」と接続されている。すごい。これまでの文脈を一気に回収しにかかっている。すごい情報量である。コロナパンデミック下に「WE GO」で”エア旅行"に出かけたfromis_9が、コロナパンデミックが落ち着いた2022年に実際の旅行に出かけるという「WE GO」以降の物語であり、大切な相手に直接想いを伝えるという大人に成長した「DM」以降の物語でもある(この曲が「DM」以降の物語である点は"完璧なエスケープ"というフレーズにも表れている)

そして本作『from our Memento Box』のWish Ver.のコンセプトフォトとして公開されたシュールを煮詰めたような浮かれ職場コンセプトは、制服姿で歌っていた彼女達が成長し今は大人として仕事をしているという点で「To Heart」と接続されているし、アルバムタイトルの"Memento Box"も「To Heart」の中に登場する想い出箱?からの直接的な引用だろう。MVの冒頭で海辺に打ち上げられている"stay with me"と書かれたボトルメールは同じく「To Heart」の"いつか渡したいラブレター わたしの気持ちを乗せて送るね"という歌詞と共にメンバーが書いているラブレターとの接続とも解釈できるし、「To Heart」の中で登場したチェキに関しても「Stay This Way」のMVの中でジホンがチェキを撮影しているという接続点がある。

そして「FUN!」との接続点だが、ブリッジパートに「FUN!」と同じく”Get on the floor”というフレーズがある点をはじめ、「打ち上げ花火」や「曜日」が使われている点など歌詞的な類似点も多い。また個人的に一番興味深いなと思ったのが、両曲とも「サマーソング」であり、「退屈な毎日を抜け出す」という近しいテーマを持っており、そして何より両曲とも「今」についての歌であるというかなり意図的な接続を行っているのだが、曲の中で歌われている「今」の捉え方と「今」の価値が全く違うのである。「FUN!」で“とにかく今を楽しもう!”と歌っていたかつての無邪気さは「Stay This Way」にはない。正確に言えば”今を楽しんではいるが、それが永遠ではない事に気付いている“という切なさが「Stay This Way」にはある。”願っていれば全部叶うのよ It`s not a dream baby”と歌う「FUN!」に対して、"完璧なエスケー プ 夢のようなこの夜"と歌う「Stay This Way」、この夢という言葉の使い方ひとつとっても、それぞれの曲の中での「今」の受け取り方が違うのが解る。「FUN!」で描かれている"今この瞬間は夢ではない"という若さゆえの確信は、永遠はないと知ってしまった「Stay This Way」では"今が今である事が夢のよう"であるという感覚に変化している。この絶妙な感情の変化の描き方に、彼女達の成長が明確に刻まれている。 また「Stay This Way」のグレーディングが極端に抑えられているのは、原色ベタ塗りのような「FUN!」のMVのトーンとの対比にもなっているのではとも思う。見ている世界の色は成長と共に変わっていく。「FUN!」で全てが輝いて見えていた時期は残酷にも過ぎ行き、「Stay This Way」ではただただリアルな景色が、それでも美しく刹那的に広がっているのだ。

※6/30追記
「FUN!」との接続に関してだが、曲の構造からして「Stay This Way」が明確に「FUN!」の続編として最初から構想されていたのではと気付いた。それは両曲ともサビがタイトル名の掛け声で始まり、サビ中で何度かその掛け声が繰り返されながら、最後はタイトル名の掛け声で終わる点である。「FUN!」は"FUN!”というフレーズでサビが始まり"FUN!"というフレーズで終わる。「Stay This Way」も同様の構造になっている。この楽曲の構造をそのまま引用する事によって、楽曲同士の結びつきをより強固なものにする発想は見事でしかない。


※6/30追記
もちさん(@h9m11_fsmvtwt)から「DKDK」からの変化という素晴らしい解釈を頂いたのでこちらに追記させて頂きます。


何より凄いのは文脈の見事なまでの繋ぎ方、過去と現在の接続の仕方である。「成長型」をコンセプトに掲げるだけはあるというか、ここまで明確にかつ美しい形で文脈を繋げてくると思わなかった。現時点でこの言説はあくまで私個人の勝手な解釈ではあるが、近からず遠からずではないだろうか。とにかくこのプロデュースの手腕に唸りまくっている。(ハン・ソンスさん当たっていたら連絡ください)

 またこのプロデュースの試みは「FUN!」から「Feel Good」の間に深く横たわっている空白期間を繋げる為の試みであり、未だ深く影を落としてしまっているプレデビューから「FUN!」までの活動期間を現在と接続する事でその過去を意味あるものとしてしっかりと肯定しようとする試みなのではないだろうか。過去があるからこそ今のfromis_9がある。それは紛れもない事実であり、その過去を肯定するために、これからfromis_9が胸を張って未来へ向かって自分達の花道を歩いていくために「DM」と「Stay This Way」は必要不可欠なものだったのではないだろうか。

実際に「DM」のMusic Videoの中でソヨンがどちらのブーツを履こうかと悩んだ結果、1足づつ履くことを選んだあのブーツはfromis_9の未来と過去のメタファーだろう。彼女達は過去を背負って未来へ歩いていく事を決めたのだ。実にニクい演出である。 

過去と未来を暗示するブーツ

PLEDISに移籍以降「DM」と「Stay This Way」という2曲のタイトルトラックを以て過去と現在を接続し、「成長型アイドル」としてその姿を完璧なまでに補完したfromis_9。おそらく次回以降は未来に向かってまた新たな変化があるだろう。「Escape Room」や「Rewind」(Rewnidのパフォーマンスは未見)によって、ガールクラッシュ系も消化できる事を証明し、更にはRed Velvet 「Feel My Rhythm」のCoverではエレガント系のコンセプトも消化できる事を証明してみせたfromis_9。いよいよ向かう所敵なしである。

今後の活動が楽しみです(超浅い締め)



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