宝いっぱいの島で子どもたちの凸凹な個性を伸ばし未来へ種子をまく「こどもの家 アトリエtempo♬」
集団の中で見過ごされがちな子どもたちの凸凹を大切にしたい。辿り着いた「モンテッソーリメソッド」
保育に関わりはじめて10年以上がたちます。最初に就職したのは、メディアにも取り上げられるような有名なマンモス幼稚園。500人以上の子どもたちと、毎日12時間以上を園で過ごすめまぐるしい日々の中で、学んだこともたくさんありますが、先生同士の関係性や、子どもたちとの向き合い方に悩み苦しんでいた時期でもありました。
日々の忙しさで先生たちは余裕を失い、それを子どもたちが気にしていること、園児が多すぎて一人一人をしっかり見てあげられないことに違和感が募る日々。
小さな子どもたちは、日々たくさんのことを感じて、大人たちの少しの変化でも敏感に受け取ります。幼少期の思い出は、何歳になっても心や脳の深いところに残るもの。
そんな大切な時期に、一人ひとりの発達をもっと大切に見ていきたい。募る気持ちから興味を持ったのが「モンテッソーリ教育」です。小規模の保育園に転職し、働きながら夜間学校に通ってモンテッソーリ教師の資格を取得しました。
「敏感期」を正しく知れば、子どもたちの生きる力を育むことができる
モンテッソーリ教育は、イタリア初の女医マリア・モンテッソーリが見つけ、生み出した教育メソッドです。「子どもには自分を育てる力が備わっている」という前提のもとに、子どもたちが本来持っている自立や原動力を引き出すことを大切にしています。
最近だと、藤井聡太さんや世界の有名な創業者たちも幼少期にモンテッソーリ教育を受けていたということで注目が高まっていますよね。
モンテッソーリ教育のなかで0~6歳は「敏感期」とされ、この時期に習得したことは二度と消えない「魔法の時期」とも言われているんです。
この時期に、子どもたちがどんなことに興味を持っているのか、何をしたくて、何につまづいているのか、なぜそのような行動をするのか。
サインを理解し、子どもたちひとりひとりの好きなことや興味を見つけて、行動したくなる環境を用意してあげる。これができれば、大人が支持しなくても子どもたちは自分のペースで物事を解決していく力を発揮することができます。
この時期を理解して上手く活かせば、親御さんも必要以上に子どもたちにイライラすることなく、子どもたちの未来へ種まきができるはず。
一人ひとりのありのままの個性は”集団の中の一人”だと見過ごされがちですが、わたしは子どもたちの凸凹な個性を大切にしていきたいと思っています。凹んでいるところがあっても、それ以上に飛び出ている部分があったらそれは強みになる。強みを育てていけたら、その子にとっても生きやすい人生が築けると思うんです。
結婚・移住・出産、そして大怪我...大切なものから離れて決意したこと
2019年から、結婚をきっかけに旦那さんの故郷である鹿児島県種子島へ移住し、その年に第一子を出産しました。「海外に来たみたい!」海外旅行が大好きなわたしが種子島に初めて来たときに抱いた印象です。
移住してしばらくは島の暮らしに奮闘しつつ、近所の保育園で働いていました。しかし、出産直後に大怪我をしてしまって、手術のために急遽島を離れて関東の病院に入院することになったのです。
息子にとって一番大事な時期に一緒にいられないことが本当に辛くて、何度も何度も泣きました。でも、息子や家族、そして保育の世界とも距離をおかなければならなかったこの期間は、今に繋がる大切な時間になりました。
療養中は本当にいろんなことを考えて。
息子が私たちの元から離れ、巣立っていった後、何を道しるべに生きていくのか......正しいことや間違っていることを何を軸に判断するのか......好きや得意を見つけて、自分の人生を築いていける人間になるにはどうしたらよいのだろう......
考えるなかで見えてきたのは、「人生の基盤となるものがちゃんと築けていれば、どんな場所でもどんな環境においても、自分で自分の道を選び判断し、人生を切り開いていけるんじゃないか」ということ。
これからは、我が子がいずれ大人になりわたしたちの元を離れても、子どもの中にあり続ける原点をつくっていこう。そう決意しました。
”好き”にとことん挑戦できる親子のための場所を地域と共に
療養中の決意を実行すべく、2023年に入り築70年の古民家を改修をはじめ、「こどもの家 アトリエtempo♬」をOPENしました。ご縁あって繋いでいただいた空き家だったのですが、海沿いにある森の隠れ家みたいでとっても素敵な場所です。
改修の段階からアートイベントを開催するなど工夫しながら、子どもたちやお父さんお母さん、地域の人たちと一緒につくりあげてきました。
心地よい空気感のなかで、子どもたちが自分の意思で選んだことを、失敗もしながら満足するまで追求できる。表現したいものを自由に表現できる。そんな場所にしていきたいと思っています。
今後は、子どもたち個々の発達のペースに寄り添うモンテッソーリのクラスと、療養中に出会ったキッズアートクリエイターの学びを生かしたアートの教室、この2つを軸に展開していく予定です。
満足している子どもたちってすごくいい表情をするんですよ。そんな我が子の姿を見たら、親も嬉しいですよね。
だけど自宅で自由に好きなことをさせてあげようとすると、親にとってはもすごくエネルギーがいると思うんです。絵の具を使うと家が汚れちゃうし、準備や片付けも大変だし、ついつい「その手で触らないで!」と怒っちゃって罪悪感を感じることも多いはず。
でも、ここでは子どもたちはなんにも気にせず思いきり表現していいですし、親御さんも子どもを好きなだけさせて遊ばせてあげられます。参加者同士の繋がりが広がっていくことも楽しみです。多様な繋がりが生まれ、地域や子どもたちの未来に繋がる豊かな循環が生まれる場所になったら嬉しいです。
宝いっぱいの島で豊かな感性を磨き、人生を切り開く道しるべを築く
わたし、種子島は宝の島だと思っているんです。
結婚を機に種子島のような海や森がたくさんあるところに初めて来て、青や緑は一色じゃないと初めて知りました。こんなにもたくさんの色があるんだと知って、こんな環境の中で育つ子どもたちの表現力ってきっとすごいんだろうな、その表現力や探究心をどうやって伸ばしていけるのかな、と毎日ワクワクしています。
これが都会の大規模な幼稚園や保育園だと同じようにはいかなくて。例えば「お父さんの顔を描こう!」とすると、「まず顔を肌色で描いて」と肌色を渡して、次に「髪の毛は黒色で描くんだよ」と黒色を渡して…与えられたもので描くことがほとんどなんですよね。
子どもは心が動くことを残そうとして絵が描けるようになります。子どもの感性を邪魔をするものがない、ありふれていないこの環境の中で、心が動く経験を子どもたちや親御さん、地域の皆さんと一緒につくっていきたいと思います。
〈編集後記〉
”ピュア”という言葉を聞いたら思い出してしまう人があゆみさん。子どもとか大人とか関係なく、一人ひとりをまっすぐ見つめながら愛を渡してくださる姿にいつも心温められます。「種子島は宝の島」といつもお話してくださるあゆみさんが、子どもたちや地域の大人たちとつくっていく世界が楽しみです。
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