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【小説】宇宙うさぎ15

 翌日、私は作戦通りダイコク編集長に会いに行った。
 宇宙うさぎが、うさぎ手は足りてるが人手が足りないからダイコク編集長も協力させろと言ったのだ。私自身、ダイコク編集長に会って確認したいことがあったのでちょうどよかった。
 下通り商店街の喫茶店で落ち合う約束をして、ダイコク編集長は時間ぴったりに現れた。
 やあと言って普段通りに席に着くダイコク編集長。オーダーを済ませると、昨日の今日でどうしたのと聞かれた。私は前置きなしに言った。

「ダイコク編集長は、誰のために、この件を依頼したんですか」

 いつものんびりとした顔のダイコク編集長の表情に、かすかに緊張が走る様子が見えた。

「動植物園の動物たちのためだよ。救いたい、と言ったじゃないか」

「何故ですか」

「何故って、山田、そりゃあ、あんな状態の動物たち、かわいそうじゃないか」

「あんな状態ってどんな状態です」

「この前見せた写真の状態」

「あの写真は、誰が撮ったんですか」

「あの写真は……」

 私の矢継ぎ早の質問に、ダイコク編集長が言い淀む。

「あれは本物の写真ですか」

 ダイコク編集長の目が泳ぐ。

「まどろっこしいこと抜きに話してください。私は宇宙うさぎたちと作戦を立てました。あとはダイコク編集長の協力が必要なんです。ダイコク編集長は何か誤魔化してますね。それが分からないと、何も、誰も救えないんです」

 私自身も救えない。

「ダイコク編集長、カンガルーの中身って何のことを言ってたんですか」

「おっさんとおばさんってタレコミがね……、いや、ここまできて馬鹿馬鹿しいな。おっさんとおばさん説はもういいや。どう説明しようか……」

 ダイコク編集長は、首をひねったまま目を閉じて眉間にしわを寄せている。

「そうだな、君の、山田自身の話からしないとな」

「私自身の話ですか?」

 予想外の返答に、今度は私の方が緊張した。

「そうだよ。君に、君自身のことを理解してもらわないと」

 ダイコク編集長はそう言って、私の入社式の時のことから話し始めた。


続く

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