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熊本まんま御作法【小説 ショートストーリー】
前々から合わないとは思っていた。
夫は、フルーツ缶詰めにケチャップをかけて食べる。私は、塩だ。
ラーメンも合わない。
ラーメン屋で夫は、食べ放題コーナーのネギとキムチを器ごとひっくり返して大盛にし、唐辛子も青いネギが赤くなるまでかけて食べる。
これで二軒ほど出禁になった。
私は、ラーメンは完成されたものだと思っているので、そんな邪道なことはしない。
そして、これが最大の問題である。これだけは、本当に良くない。
何としても、この食べ物だけは私に合わせてもらわなければ困る。
そのために私は、夫の食改革をはじめた。
まずは、簡単に怒った。
無意味だった。私の怒りなどどこ吹く風といった様子だった。
次に、外堀を埋めようとした。
夫が尊敬している友人、同僚に協力を求めたのだ。
誰も協力してくれなかった。
最後に、これだけはやりたくなかったが、私の食に対する尊厳のために、みーばーちゃんを頼った。
みーばーちゃんは御船町に住んでいる巫女だ。特別なパワーがある。
噂によると、緑川に棲むイタズラ好きなカッパたちに相撲で勝ち、果ては恐竜を甦らせたとのことだ。はっきりいって全能の神だ。
みーばーちゃんに頼めば、夫の食改革なんて赤子の手をひねるが如し。
私は夫をなんとか騙してみーばーちゃんの前につれてきた。
みーばーちゃんが呪文を唱える。
おまんま食べえ、おまんま食べえ
今日もばあばが腕ふるい
おまんま食べえ、おまんま食べえ
ぐるぐる、だごじる、赤牛だ
夫はきょとんとしていたが、私は不思議なパワーを感じた。
これでもう夫の食は私の思い通りである。
私はみーばーちゃんに浄財と書いた封筒を渡し、夫をつれて帰った。
翌日、私の買ってきた馬刺しは、しっかり解凍されていた。
結局だめだったのだ。
みーばーちゃんの噂は嘘だったらしい。
夫は、冷凍ブロック馬刺しを解凍してから食べる。
私は、凍ったまま切り分け、シャリシャリの状態で食べる。噛んでるうちに勝手に口の中でとろけてくるし、無駄なドリップも出ない。刺身だし、冷たいのが美味しいのだ。
これに関して、夫、家族、友人、みな私に賛成しない。
全く、世の中間違っている。
この世の縛りに私は合わない。前々から合わないとは思っていたが。
了
(小説投稿サイトエブリスタで公開していた作品です。)
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