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小指をぶつけたダイコクさんとふてくされた兎 3/8【短編小説】

突然現れた蜘蛛は、ダイコクさんとトビキチに語り始めた。

こんなことがあったーー。

蜘蛛は、ある神社の御神樹であるセンリョウの枝に巣を張って暮らしていた。年に一度、自分の糸をささげ、神様の着物の材料にしてもらうかわりに、巣を張る場所を提供してもらっていたのだ。

小さな神社で、お参りする者も少なく、神様は質素に暮らしていた。何せ蚕の糸ではなく、蜘蛛の糸で着物を作らなければならないほど貧乏だったのだ。
貧乏な神様の社だったが、日々は平穏に流れていた。神社の池にあのおかしなものが現れるまでは。

そのおかしなものは、最初は蝶の姿をしていた。ひらひらと、夏の昼下がりに涼を求めてか神社の中へ入ってきた。
蜘蛛は、しめしめと思った。この神社で翅《はね》を休められるところはセンリョウの枝くらいしかない。蜘蛛はじっと身を潜め、巣に獲物がかかるのを待った。蝶は社を一周すると、蜘蛛の思ったとおりセンリョウに近づいてきた。
ぐいっ、と引っ張られる振動を感じた。蜘蛛は巣の中央へ飛び出し、引っかかった蝶を絡めとろうとした。が、次の瞬間、蝶は魚となって、センリョウの下の池にぽちゃりと落ちて逃げた。

それ以来、池に住み着いたそのおかしなものは、獲物が巣にかかろうとすると、池から跳ね上がって水滴を飛ばして獲物を逃がす。酷い時は、巣ごと破ってしまう。

このままでは、神様へ糸を捧げる前に飢えて死んでしまう。
小さな神社とはいえ、秋には収穫祭で村人が神社を参る。その時までに、神様に新しい着物ができなきゃ、神様も力がでない。神様に力がなくなれば、神社も本当に廃れてしまう。
あの神様には、住まうところをもらった以外にも恩がある。なんとか、助けていただけないでしょうかーー。

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。

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