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小指をぶつけたダイコクさんとふてくされた兎 1/8【短編小説】

ダイコクさんは右足の小指を段ボールの角にぶつけた。
床に倒れて悶絶躄地《もんぜつびゃくじ》。だが、大きな声を出したりはしない。彼には臆病で神経質で大切な家族がいるから。それというのが兎のトビキチだ。トビキチは鼻をひくつかせ、床で体を丸めて苦悶の表情を浮かべるダイコクさんを一瞥してこういった。

「相変わらずの間抜けが」

そう、この兎しゃべれる。
それを聞いてダイコクさんがぼそりと呟く。

「優しさがほしい……」

トビキチの鼻のひくつきが速くなる。

「黙れ、間抜け。だからお前は痛い目みるんだ。それで俺はいつもとばっちりだ」

ダイコクさんは言い返せない。

「そのナヨナヨした態度が悪いんだ。舐められる。お前が兎だったら、とっくにキツネにでも食われてる」

トビキチはダイコクさんの額に後ろ蹴りをお見舞いするとケージの中へ入っていった。
ダイコクさんは額と小指を擦りながら座り直した。

「なあトビキチ、悪かったよ。引っ越しばっかりして。しかもトビキチが忙しくなる秋に。でも、もう大丈夫だ。しばらくはここでのんびり暮らそう」

ダイコクさんは、ケージの中でふてくされて横になってるトビキチの尻をつついた。

「うるせえ。さっさと荷解きして、俺の干し草出しやがれ」

そういうと、しっぽを左右に振ってダイコクさんの指をはたいた。
ダイコクさんは嬉しくなった。しっぽではたくのは、後ろ蹴りより優しい。
ダイコクさんは、おう、そうだったな、といって立ち上がると段ボールを次々開けていった。トビキチの主食である干し草が見つかったのは、日もとっぷり暮れた夜で、ダイコクさんはまたトビキチに後ろ蹴りをお見舞いされることになった。

(続く)




 

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