【小説】肥後の琵琶師とうさぎ6
産山の神様におつかいを命じられた。
――琵琶の音で、生命を踊らせる者がいる。産山にふさわしい者だ。産山のカゴを渡してこい。それから、この山で琵琶を奏でさせろ……。そうすれば、悪童うさぎたちのことは許してやろう……。
トビキチは耳を垂れ、頭を垂れ、返事をした。
――これでチビどもの心配はなくなる。
ひと月前、トビキチの仔うさぎたちは、山ひとつを裸にしてしまった。仔うさぎたちは食欲旺盛。その程度なら、植樹禊でいつも許してもらえたが、今回ばかりは食いつくした山の場所が悪かった。産山の神様に献上する楽器を作る木まで齧りたおした。怒った産山の神様は、仔うさぎたちとトビキチの食草を制限してしまった。食べることができるのは、トゲトゲのアザミのみ。仔うさぎたちはどんどん痩せていった。
困ったトビキチが、産山の神様に許しを乞いに神社を訪ねたところ、先のおつかいを言い渡された。
――俺の耳を持ってすれば琵琶弾きくらいすぐ見つかるさ。簡単なおつかいだ。
簡単なおつかい。そう思っていたのだが、今トビキチの前に座っているのは、盲目の琵琶師と不運な娘であった。
――骨が折れそうだ……。
トビキチは舌打ち代わりに鼻を鳴らした。
続
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