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ダイアログ・イン・ザ・ダークに行った話

ダイアログ・イン・ザ・ダーク。

普段は飄々としているあの元同僚が「頭を殴られたような衝撃を受けた。2024年上半期に出会った中で1番のエンタメ。」と言うので、会社の有志で行ってみることに。

真っ暗闇のエンターテイメントとして知られ、これまで約24万人が体験した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。案内人は暗闇のエキスパート、視覚障害者。完全に光を遮断した”純度100%の暗闇”を探検し、視覚以外の様々な感覚、コミュニケーションを楽しむ、発見が満載のエンターテイメントです。そして、ただ「見えない世界」の追体験をするのではなく、人と人とのかかわり、つながりをどう育み、保っていくのかを体感していきます。暗闇で、あなたとの出会いを心待ちにしております。

ダイアログ・イン・ザ・ダーク公式サイトより


プログラムは季節ごとに変わるそうで、私たちが参加したのは、「暗闇の中の電車に乗って 出かけてみよう! キハ40で春の旅。」というプログラムでした。



暗闇の中



暗闇に入るまでにもおもしろいことはあったものの、長くなりそうなので、暗闇の中での体験から書こうと思います。


暗闇の中、おっかなびっくり進んでいく我々と、スムーズに進んでいく暗闇のエキスパート・案内人のマリリン。

私は、顔になにかがぶつからないように左手の甲を前に出し、白杖で足元を確認しながら小さい歩幅で進みました。(社交ダンスの構えのような感じ)
妙なポーズでも、トンチンカンな方に進んでいても、こっそり休憩していても、誰にも見えてないから大丈夫!と思うと探索も進みます。


マリリンがおおらかに案内してくれる安心感や、静かめな空間、溝や階段や通行人などの危険要素が少ないこと、よく知ったメンバーで参加していることもあり、私はすっかり落ち着いてしまいました。
見えてないけど、この環境ならあんまり普段と変わらない。
(閉所恐怖症の人は最初かなり怖かったようなので、個人差が大きそう。)


さらに時間が経つにつれ、暗闇に慣れて落ち着いたという以上に、心が落ち着いていることに気づきました。こんなに落ち着いた気持ちはかなり久しぶりかも、と思うくらい。

飽きたわけでもなく、眠いわけでもなく、ただただ感覚が静かでした。



暗闇の外



90分の暗闇生活が終わり、ドアを開けて視覚のある生活に戻ります。
暗闇エリアから出た瞬間、まぶしさとともにたくさんの色や形が流れ込んできました。


自分から4mほども離れたところにテーブルがあるのが分かる。そのテーブルはいま誰も使ってない。大きな窓からみえる外は通行人がちらほら歩いている。もうすっかり夜になっている。窓ガラスに室内の光が反射している。物販エリアには斜めに置かれた棚がありTシャツやグッズが色やサイズ別に並べられている。POPには商品名や値段が書いてある。部屋全体の形や広さ、天井の高さも分かる。手の届かない範囲でも置いてあるものが分かるし、人がいるのも分かる。その人がどんな姿をしているのか、どんな服を着ているのか分かる。歩いている方向は私たちに向かっているわけではないので関係ない人。照明からカラフルなフィルムが垂れ下がっている。その他のたくさんの照明が部屋の隅々を照らしている。さっきソファに座ってたカップルっぽい2人組はもういない。壁に色々貼ってある。壁に並べて貼ってある大きなポスターには図や文字が印刷されている。白と黒のコントラストが強い。参加者のコメントと思われる大量の付箋が貼ってある。付箋の色や並べ方は揃えられている。ロッカーにも番号が印字されている。床の材質、壁のテクスチャ、一緒に参加した同僚たちの服装や顔や表情。


自分の目が、自分に関係あるものも関係ないものも、近いものも遠くのものも丸呑みにしていきます。気づけば、暗闇の中で感じた静かで落ち着いた気持ちはどこかに行ってしまいました。



すごい力だ、視覚伝達。



あれに一番ぴったりな言葉は「うるさい」だと思います。聴覚に使う言葉でうすが、あの次から次へと意識をひっぱられる感覚にはこれが本当に一番ぴったり。

私が特に「うるさい」と感じたのは、カラフルな照明、ポスター、文字でした。いつも私が仕事で扱っている、色・形・文字。それらの伝達する力がこんなにすさまじいとは驚きです。

すごく派手なわけじゃないのにかなり目を引く!視線を向けざるを得ない!というかちょっと視界に入るだけでいろんな情報がダイレクトアタックしてくる!!!
すごい力だ、視覚伝達……ッ!


視覚は、遠くにあるものや空間の把握、色や文字による情報取得、人の表情から感情を予想したりと、把握、理解、察知などに長けている感覚なのだな〜と改めて思いました。

ダイアログ・イン・ザ・ダークのあとに行ったレストランでは、メニューを見て、「注文できる料理がすぐ分かる!なんて便利なんだ!文字!最高!写真!最高!」と新鮮に感じました。

強力で、役に立つ視覚伝達。強力だからこそ、状況によって適切な力加減になるようデザインすることが必要なのだなと、グラフィックデザイン学科を卒業したというのに、いま体験しました。

特段「デザイナーとしてなにかを得るぞ!」という意気込みで参加したわけではないものの、そんなことを学びました。



その他のこと



ダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇の中では、私の世界は自分の手や足、白杖で触れる範囲、耳の届く範囲だけでした。味覚や嗅覚も少し。

一方、目の見える状況では、暗闇では知る術が無かった、遠くにあるテーブルやガラスの外の風景など、その時の自分に関係ないものも把握できます。短い時間でしたが「遠くのものが分かる」ことが自分と切り離されたことで、
「自分」
「自分の手や足で触れる範囲」
「自分の目で見える範囲」
「自分の目も届かない範囲」
というような層があるのが分かりました。

暗闇の時間は、「自分」「自分の手や足で触れる範囲」のことだけ分かればよかった。それはそれは静かで心地よく、どうにか日常に取り入れられないかと思うほどです。(瞑想とか……?)



後日、他の人に感想を聞くと、
「自分も落ち着いた気持ちになった。」
「自分は視覚よりも聴覚の方が失ったとききついかも。」
「自分がこんなに触覚を大事にしているとは思ってなかった。」
「視覚障害者にアテンドされるという、普段とは立場が逆転する体験が革命だと思った。」
などなど、色々な感想が持てるのもおもしろいところです。


個人的には、公式サイトにある「人と人とのかかわり、つながりをどう育み、保っていくのか」を拝借し、「遠くのものと自分とのかかわり、距離感をどう捉え、保ったり保たなかったりするのか」というテーマを見つけるきっかけにもなったなと思います。



そんなこんなで日々ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験を小さく折りたたんでは持ち運び、たまに少し広げてみています。


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