マニュアルと才能
「あ、あれ……?」
向かいのデスクにいる隣のチームの人が呟いた。
「……動かない」
細い通路を挟んで斜め後ろにいる同じチームの新人ちゃんも言った。
……ざわざわ
いつも使ってるパソコンにエラーが起きたようだ。僕のパソコンも更新してみると「このサーバーにはアクセスできません」とエラー文言が出てきてしまった。
…ざわざわざわざわ
どうやら隣の隣のチームでも同じことが起きているようだ。フロア全体を見渡してみると、明らかに皆が動揺しており作業がストップしている。サーバーにエラーが起きて社内の専用のパソコン、つまり外部とはアクセスできないような仕様になっているはずのパソコンのみがエラーになってしまった。
ざわざわざわざわざわざわ
徐々に話し声が大きくなっていく。
いつもは文庫本を読んだり居眠りをしたりしている管理職たちがこぞってセンター長の周りに集まっていた。
「一旦手を止めてくださーい!」
センター長たちが何やら神妙な面持ちで5分ほど話した後、指示が出た。
手を止めるも何も、このパソコンが使えないなら業務を進めることができない。
そんなことも分からず桁違いなボーナスをもらって、1回あたり20分のタバコ休憩を1日に10回も行くIT系上場企業の社員をやっているのか。
そう思うと、毎月25日に入る薄給と休日や仕事終わりにアルバイトしてプラス5万をもらってなんとかやりくりしている常駐社員の俺は、なんとも馬鹿らしく思えてきた。
外部にもアクセスできる方のパソコンを使い、状況を調べることにした。
すると、プライベート端末を使っている人でもサーバーが使えないという内容のネット情報や投稿があった。
僕はいつものフロアを出てサーバー担当がいる別の階のフロアへと向かった。そこではサーバーを管理しておりエンジニアも多数いると聞いたことがある。そこに行ったら何か解決できるかもしれない。
「どんな状況ですか?」
かなり偉そうに質問すると人は意外と騙されて、「あ、この人偉い人だ。なんか改善してくれそう。意思決定してくれそう。」となり、知らない仲でも状況説明してくれるものだ。
案の定、「ここからサーバーダウンしちゃったみたいですねー」と別の階のフロアにいたエンジニアの一人は教えてくれた。
これなら直せそうだ。前職はかなりの放任主義な会社だったから全部自分で働きかけないと業務が進まなかった。
こんな時に今までの経験が活かせるとは。
カタカタ……カチャカチャ……ポチ……
なんだ、これなら直せる。俺になら簡単だ。
「パソコンに触らないでくださーい!マニュアル確認中です!」
いつもやたら電話ばかりしていて派遣社員に対してだけオラオラしている管理職の一人は叫んだ。
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