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【ショートショート】ペンギンとラジオ

※この作品は、ChatGPIにランダムな単語の組み合わせを生成してもらい、そのタイトルにしたがって創作しています。
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まだ誰にも正式な名前をつけられていないその島には、動物たちだけが住んでいたが、ニンゲンの住む島から離れている割には海流のせいでニンゲンの物資が流れ着くことがあった。
またごく稀にはニンゲンたち自身も流れ着いたが、平地のほとんどないこの島を目指して来るものも棲みつくものもなく、舟が直ったり助けが来ればすぐ出ていった。
だからこの島の動物たちは、ニンゲンを脅威に感じることはなく、ただ珍しい生き物として認知していた。ニンゲンも、単にこの島を離れ小島と呼んで、興味をほとんど示さなかった。
しかし、たまにあるニンゲンの接触は、ニンゲンに興味を持つこの島の生き物を刺激した。特に、海岸近くに住むペンギンの群れには、ニンゲンに興味の強い個体が、ごく稀ではあるが生まれてきた。
なにしろ稀なことなので、そんな個体の数は少なかったが、似たもの同士は惹かれ合うらしく、そしてその特性は引き継がれるらしく、長い長い時間の果てに、そのペンギンの群れの中には、ニンゲンに強い興味を持つ一族が形成された。
彼等は他のペンギン集団とも仲良く暮らしていたが、時間ができると、海岸に来るのを習慣としていた。新しく流れ着いたニンゲンのものを探すのだ。
その日は、小さな箱をふたつ見つけ、ペンギンたちは、それを咥えて「ニンゲンの丘(のちにこの島を研究した学者による命名)」に運んだ。
その丘はこの島でいちばん高く、海が広く見渡せたので、この島に流れ着いたニンゲンが助けの船を待ったり、当面の暮らしの拠点を置く場所になることが多かったから、ニンゲンたちが置き忘れたものがささやかに貯まる場所になった。一族はそこに拾ったものを集めては、色々いじくってみることをライフワークのようにしていた。
もっとも若いメスが、その小さな箱の一つをつついてみたり、転がしてみたりしていたところ、箱からガピー、という変な音がした。しかも、そのメスがいじっていた方ではなく、別のオスがいじっていた方からだ。
今度はオスが自分の方の箱をつつくと、メスの方の箱から音がする。
しかも、ガピーという音の奥に、オスの驚いた声も流れてきた。
漁船かなにかの小さな無線機を拾ったのだ。
2羽のペンギンは、その不思議に夢中になって、あちこちのボタンを踏んだりつついたりしていた。ボタンを押しながら鳴くと、もう一つの箱から鳴き声が出る、ということがなんとなく理解できた頃、オスがいじっていた方の箱が丘から滑り落ち、砂浜に落ちた。
何やってんのよ、と言わんばかりの声をメスがあげようとした時、丘の下の情景が彼女の目に入った。
海岸線近くを他の一族が歩いている。
そして、それを目掛けてアザラシがゆっくり近づいてきている。
アザラシは岩陰ちかくにいるので、歩いている一族は全く気づいていないが、上からはよく見える。
彼女は精一杯の警告音を出して知らせようとしたが、波音で届かない。彼女が、足を踏ん張ってもうひと叫びしようとした時、彼女の短い尾が無線機のボタンを踏んだ。
警告音が、砂浜に響き渡る。
呑気に歩いていたペンギンたちは慌てて周囲を警戒し、小高い丘に逃げた。アザラシは驚いたのか諦めたのか、海へ戻っていく。
それからしばらく、無線機は砂浜と丘を繋ぎ続けた。
群れの中の誰かがいつも丘に立ち、砂浜の仲間に、敵や獲物の場所を教えた。時には、砂浜から波の様子を丘に伝えることもあった。
その後島に流れ着いたニンゲンの中にも、そんなペンギンのやりとりをを目にした者がおり、
ホラ話のような話として、沖のイルカとも情報交換していたとか、大掛かりな求愛手段として使われた(そして失敗した)というのも伝わっている。今は学者がこっそり無線機を修繕しながら、ペンギンの生態を探っているそうだ。
こうしてその島は、ラジオ島と呼ばれるようになった。


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