見出し画像

ローカル局はわかっているなら、動くしかない

月刊ニューメディアの秀逸企画、ローカル局社長アンケート

月刊ニューメディアの6月号(5月1日発売)が非常にいい特集を組んでいる。「ローカル局経営トップ42人がアンケートに答えた『経営の現在地と展望』」と題して、大々的なアンケートをローカル局社長に対して行っているのだ。
これはすぐに読みたいと、私はネット注文ではなくわざわざ東京駅の丸善本店まで行って購入した。用事もあったからだが、足を運んだ甲斐がある迫力ある記事だった。

「月刊ニューメディア」2023年6月号P10より

アンケート項目は「放送収入と放送外収入」「経営課題」「3年後の予想」などいずれも切っ先鋭いものばかり12の質問が並び、最後に10年後について自由記述を解凍するものだ。キー局を除いた民放122局の全社長に送り、返ってきたのは35%に当たる42局だったという。
記事ではアンケートの集計結果を紹介しながら、3人の論客の鼎談の形を取っている。大阪芸術大学教授の榊原廣氏、京都産業大学教授の脇浜紀子氏、東海大学教授の樋口喜昭氏。脇浜教授は元読売テレビ・アナウンサーでMediaBorderにも何度かご寄稿いただいている。
この中身はぜひ各自入手してじっくりお読みいただきたい。かなり具体的な設問に、リアルな回答が寄せられている。
さらにこの特集は最後の自由回答が目玉だ。ニューメディアはなんとこれをWEB上で全公開している。大盤振る舞いだ。

自由解答から感じた社長たちの真剣な危機感

下の画像を押すと、自由回答がPDF化されたページに飛ぶのですぐに読むことができる。

これを読むと非常に驚いた。アンケート以上に真剣で痛切な危機感が伝わってくるのだ。正直、ローカル局は危機感があるのか、経営者は何をしているのかとよく知りもせず思っていたが、それは失礼というものだと思い知らされた。思っていた以上に、危機感を持っているのだ。
地域に根ざしたメディアであらねばならない。コンテンツを重視せねばならない。デジタルシフトを進めねばならない。ローカル局同士の統合が進むかもしれない。

一つ一つ、その通りだということが書かれている。今のままではダメ出し、取り組むべき方向性は網羅されていると言っていい。わかっているではないか。であれば、新しい取り組みがこれから次々に起こるに違いない。これを読むと、いい方向の動きに期待してしまう。

TVerに出せればどんどん出すべきに決まっている

ところが実際にはどうだろう。どこにもローカル局の新しい動きが見えてこない。いやもちろん、これまでここで取材したような様々な取り組みはとっくに行われている。きっと成果も出ているだろう。
だがはっきり言って、現状の危機はそんなことではカバーできない。津波のように「利益」を洗い流すような惨憺たる状況がやってきているのだ。
それなのに、困ったなあ、どうしたものかなあと、考え込んでいるだけに見える。
例えばTVerだ。これまではキー局経由じゃないと番組を上げられなかった。それがこの夏あたりからローカル局がキー局を通さず直接TVerに番組を入れられるようになるという。
その説明会が先日あったそうだ。ところが、番組あたりの手数料がかかってしまう。そのことをあるローカル局の方が嘆いていた。それではとても取り組めないですよ。それを聞いた時は、それはしんどいですねえ、と相槌を打つしかなかった。
だがこのアンケートを読むと、話が違ってくると感じた。経営者は号令をかけねばならない。「手数料がかかる?気にせずとにかくやってみろ!TVerは放送業界ではっきり伸びてるプラットフォームなんだから。番組を置いた上で、SNSで盛り上げたり、放送で告知したり目一杯力をかけるのだ!」
経営者がアンケートに示したほどの危機感を持っているのなら、これぐらい言わなくてどうするのかと思う。もちろん、やってみてもちっとも見られず数百万円の赤字になるだけの可能性は高い。だがひょっとしたらひょっとする。本来はもっと前からSNSに力を入れておくべきだったが、今からでも遅くはない。SNSアカウントで「うちの番組TVerで見れます、面白いです!」と必死で告知すればいい。放送で告知すると視聴率に影響するとか言ってる場合ではない。視聴率はどのみち、長期的には減るのだ。今のうちに放送でTVerでも見てねと告知するべきだろう。
経営者が危機感を持っているなら、新しい取り組みに費用がかかると悩む現場にどんどん声をかけて「責任はわしが持つから、儲からなくてもいいからやってみろ!」と言うべきなのだ。経営と現場が気持ちを一つにできていない。そこにこそ最大の課題があるのだと思う。

できることは他にいくらでもある

最近、YouTubeでテレビ局のニュースや、小さなコーナー、解説委員の事件解説などが見られていることに気づいている人は多いだろう。なぜか。YouTubeユーザーの裾野が広がり、政治や社会の話が好きな団塊の世代がかなり見るようになってきたのだ。
YouTuberの中には時事問題をろくに裏ドリもせず勝手なことを喋る人物が出てきている。意外にチャンネル登録者も多く人気がある。いわゆる陰謀論YouTuberで、元々左か右に極端に寄っていた人が、自分と似た考えの発言を好んで見るのでタチが悪い。
だからこそ、テレビ局の真っ当なニュース解説が必要だ。そのことを多くのユーザーが感じ始めているので、テレビ局の解説動画の人気が高まっている。「YouTubeなんかやって儲かるのか?」とここでも言う人が出てきそうだが、YouTubeは最近言われるように儲からなくなってきた。だが、ネット上で兎にも角にも基盤ができる。キャスターが若い人の間で人気者になるかもしれないし、チャンネル登録者が増えると、そこでスポンサード動画を展開できるかもしれない。
実際にそういう事例は出てきているので、今度きちんとレポートする。
また、先日MediaBorderでドコモの新動画サービスLeminoのインタビュー記事を掲載したが、その中でテレビ局とも積極的に提携していると話をしていた。
ローカル局との提携もありで、山陰中央テレビの「かまいたちの掟」がLeminoに入っていた。


Leminoの中の「かまいたちの掟」トップ画面(筆者がキャプチャー)

この番組はTVerでたくさん見られて「TVerアワード特別賞」を獲得したからだろう。だが、TVer以外にも選択肢はある、ということだ。U-NEXTもありかもしれないし、Disney+やNetflixでもありかもしれない。これらの場合、手数料は取られずおそらく期間設定の買い取りだろう。うまくいけば、ぼんとキャッシュが入ってくる。
うちはそんなバラエティは作ってない?だったら毎日のニュースや情報番組をどうしたらお金にできるか。どこなら買ってくれるかと考えればいい。
今やコンテンツは様々な事業者が求めている。映像サービスの数だけチャンスはある。
もう一つ、どうせならプラットフォームをローカル局中心で作ってしまえばいい。そんなとんでもないとか考えるより、10年後に統合が進むというのなら、系列もへったくれもなくそこまで考えればいいではないか。

危機感があるなら動くしかない

今回の特集でローカル局の危機感はよーくわかった。誰一人安穏としていいとは思っていない。だったら、動くしかないのだ。動いて失敗して、でもそこから学んで次に動いて、そんな試行錯誤を続けていってようやく、10年後になんとかなっているかもしれない。そういう状況なのだと、今回のアンケートを受け止めて共有すればいいと思う。

ここから先は

0字

テレビとネットの横断領域をテーマにメディアの未来を語り合う場です。境治が発行するMediaBorde…

購読会員

¥550 / 月
初月無料

交流会員

¥770 / 月
初月無料

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?