耳を開くワークショップで鼻が開いた話
奈良県の山奥で、サウンドスケープのワークショップに参加した。
主催は奈良県立大学(実践型アートマネジメント人材育成プログラム) CHISOU lab.さんと12面体スピーカーで有名なsonihouseさんで、「その土地、その時にしか生まれない音を通じて、土地に積み重ねられた層と感覚の広がりを体験するプロジェクト」ということらしい。
友人に誘われて、「よくわかんないけど、まあ、行ってみるか。」と思って出かけた。
我々は奈良県宇陀市のまちの中を流れる川を水辺から水辺へと、その音に耳を澄ましながら巡り歩いた。
その時の様子はこちらに美しくアーカイブされている。
小一時間歩いただろうか。
民家の間を流れる川を追いかけ、小山や雑木林を抜け、田んぼの間を流れる川へ出た頃には、少し息が上がりマスクが苦しく感じられた。
ここは外だし距離を取ればいいかと思い、集団から離れマスクを外して空気を吸った瞬間!匂いの嵐に殴られた!
言ってる意味がわからないと思うが、とにかくめちゃくちゃ匂いがして、びっくりした。脳ミソに直接匂いを吹きかけられているかと思った。
知ってる匂い!嗅いだことがある匂い!寒い3月の!田んぼ!土!用水路!動物のうんこ!湿った草!……小学校の帰り道、田んぼのあぜ道で摘んだ土筆、赤い屋根のカントリーエレベーター、ぶつけた傘の柄のプラスチックの凸凹ザラザラした感触、くたくたになった白い綿の給食エプロンの袋のやわらかさ、美容室帰りの自転車で髪の間を風が通って頭がスースーする、夕方5時に役場から流れる夕焼け小焼けの時報、味のなくなった10円ガム出したい……
田んぼの中で見た景色、聴いた音、触った感触がごちゃまぜになって一気に頭の中に流れ込んできた。
涙が出そうになって、こらえた。
マスクによって失われている感覚があるとわかった。確実にある。
はやくマスクをせずに暮らせるようになるといいなと思った。
おわり
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