記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

少女小説の語らぬ先〜 『本屋さんのダイアナ』感想文

世の中にはいろんなハラスメントがあるけれど、ハラスメントに対峙したり回避したりする方法を、私たちはきちんと教わってきただろうか

ってことを、この本を読んで強く思った。

柚木麻子さんの著書『本屋さんのダイアナ』
感想と雑感です。ネタバレあります。(約2000字)
単行本は2014年に発行されました。(やっと読めた)




📕ダイアナと彩子

主人公はダイアナという名の女の子。なんと漢字で「大穴」と書く。れっきとした日本人で母親はキャバ嬢のシングルマザー。この母親の影響でダイアナは髪を金髪にしている
もう一人の主人公、彩子は裕福な家庭の上品な女の子。優等生で人気者。

そんな正反対な二人が読書を通して友情をはぐくむ。
『秘密の森のダイアナ』という本(架空の本)が物語のキーとなる。


📕金髪と学歴

二人の育ってきた環境やたどる道のりは対照的だ。

彩子ダイアナの母ティアラ(キャバ嬢の源氏名)から、ダイアナの金髪の理由を聞かされる。
かつてティアラが私立小学校に通っていたとき、通学の電車内で何度も痴漢にあい、考えた末に金髪にしたところ痴漢行為がピタッとやんだという。娘が同じ目にあわないように金髪にしているというのだ。

彩子は考える。

ティアラさんがダイアナの髪を染めたのは、なめられないためだったのか。間違っている気もするけれど、もしかして、ママが彩子に学歴をもたせたい、と願うのと、同じ発想なのではないだろうか。

『本屋さんのダイアナ』より

「なめられないため」。子どもを守るためのものだが、このアグレッシブな発想には面くらった。そうか、ケンカでの勝ち方を教える、みたいなものか。
世間には嫌な奴らがいるという前提だ。

ともあれ、ダイアナは金髪を、彩子は学歴を。ベクトルが違うけれど、生きていく術(すべ)となるもの、自分の身を守るためのものを二人は与えられたのだ。


📕外の世界はこんなだと思わなかった

高校から大学にかけての時期に、二人はそれぞれトラブルに直面する。

ダイアナは高校時代、級友たちから万引きの濡れ衣を着せられる。ダイアナは怒り狂い、首謀者たちの髪をつかんで頭突きを喰らわせ、無理やり店まで連れて行き謝罪させた。徹底的に報復したのだ。

彩子の場合は大学入学後、派手なサークルに勧誘され性被害にあってしまう。
大変なショックを受けるが、彩子は被害の事実と自分の気持ちに蓋をする。逆に自分の尊厳を踏みにじった相手との関係に執着していく。

彩子の話は読んでいてとても辛い。
内面の怒りは加害者ではなく、これまで自分を育ててくれた親や環境に向けられる。現実の醜さや闘う方法をなぜひとつも教えてくれなかったのか。外の世界はこんなだと思わなかった、という思いとともに。 


📕少女小説、少女漫画の先にあるもの

本書には文学作品や作家名が多く登場する。『赤毛のアン』『秘密の花園』や『小公女』。向田邦子や森茉莉の名もあげられている。(私は向田邦子作品は未読です、すみません)

「こういう美しい世界があるから生きていける」という心の拠りどころではあるが、現実世界に存在する悪意や理不尽や性の問題にどこまで踏み込んでいるのだろう。(ローティーン向けの少女小説で性の問題を扱うのは難しいかもしれないが)

性被害にあったとき彩子は愕然とする。(発育の早かった彩子は、小学校高学年のときに一部の男子から下卑た視線でよくからかわれていた)

(男子たちの)あの悪ふざけの先にあるものはこれだったのか。

『本屋さんのダイアナ』より

少女漫画も少女小説と似たような傾向にある。告白、付き合う、キス、までは描かれるけどその先は?(『NANA』はその先も描いてますよね。昔の少女漫画だと吉田まゆみはその先のセックスをわりと示唆していた)

少女小説がこれまで手の届かなかったところ、触れなかったところ。性の問題や、自分の尊厳をかけてノーを突きつけなきゃいけない時もあるってこと。
世界はそれほど女の子に優しくないということ
本書はそれらも盛り込んだ「シン・少女小説」なのではと思う。


📕やっぱり赤毛のアンが好き

少女小説は女の子の成長物語である。
本書も友情物語であると同時に女の子の成長や自立がテーマになっている。

ダイアナの母ティアラの人生がだんだん明らかになっていくが、それがある意味少女小説の主人公そのもの。これも「冒険のその先」のひとつのリアル。

自分を偽っていた彩子が『秘密の森のダイアナ』(架空の本)の一節で自分を取り戻す場面はとても印象的だ。
断絶したダイアナと彩子は『赤毛のアン』で再び繋がる。

結論。やっぱり少女小説は女の子の生きるよすがとなる。


【あとがき】
私は熱心に少女小説を読んできたわけではないので本書に出てくる作品で知らないものも多いです(『おちゃめなふたご』とか)
高校生以降ダイアナが向田邦子や森茉莉、彩子がサガンの『悲しみよこんにちわ』のセシルに憧れるとか好みが分かれてきてるのもおもしろいですね。

心の支えになる憧れの世界は大切にしたい。同時に、現実を生きぬくしたたかな戦略も必要なのです。がんばれガールズ。


この記事は彩子視点中心になりました。
ダイアナの成長物語は、どうぞ本を手にとって見届けていただけたらと思います。


画像は ピッピ様 にお借りしました。(長靴下なお名前が素敵です♡)

(ひとりライラン83日め)

#ネタバレ
#読書感想文

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,330件

最後までお読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。「スキ」ボタンが励みになります。