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英語コーチの僕がオススメする正しい『英語のハノン(初級)』の使い方

昨日の記事では「英語コーチが実感している『英語のハノン』の効用」をご紹介しました。

一方で、著者のツイートを拝見していると、こんなに効果的に英語力を高めてくれる『英語のハノン』なのに、使い方がまずいせいで悲しい結果に陥っている人が多いということも、また事実のようです。

そこで今日は(おせっかいとは思いつつ)英検一級/TOEIC925点英語コーチである僕が『英語のハノン(初級)』を使って英語力を向上させた方法について「本書の正しい使い方」をもとに、ご紹介したいと思います。

1.本書の進め方基礎の基礎

先程ご紹介した著者のお一人、横山氏のツイートにもありますが、お薬をお医者さんの処方に従って飲まなければいけないように、本書を使って英語力をなんとかしたいんなら、お医者さんであるところの著者の方のいうことをちゃんと聞なければなりません。

その処方箋は、本書のP12頁にあります。

ドリル練習は開本→閉本の順で進めます。最初は英文を見ながら練習を繰り返します。音声にはスロースピードとナチュラルスピードの2種類があります。最初は本を見ながらスロースピードで進め、慣れてきたらナチュラルスピードに切り替えてください(もちろん、最初からナチュラルスピードで練習しても構いません)。
開本状態でできるようになったら、今度は本を閉じ、同じ練習を繰り返します。目標は、閉本したまま、ナチュラルスピードですらすら言えるようになることです。

(『英語のハノン(初級)』横山雅彦/中村佐知子著 筑摩書房 2021年 p12)

まずは「開本/スロースピード」、慣れてきたら「閉本/ナチュラルスピード」。これは絶対に守りましょう。

本書のこの箇所では言及されていませんが、「すらすら言える」とは、音源の中にある「ポーズ」の間に、英文を口に出せることです。
やってみると分かりますが、naturalスピードでは、一瞬でも考えたり言いよどんだりするともう、次の音声が無慈悲に流れてきます。これでは「すらすら」とは言えない、少なくとも僕はそう思ってトレーニングしていました。

ぼくは英検1級/TOEIC925点ですが、これをナチュラルスピードで完璧にこなせるようになるには、最低でも15回くらい同じドリルを繰り返す必要があります。時間にするとだいたい30分〜45分くらいです。
1ドリルはたった5センテンスだけですが、この5つの文章を完璧に「すらすら」こなせるようになるのに実に30分かかるということなんです。

後で言及しますが、「一日1ユニット(=40センテンス以上!?)」なんてとんでもないことです。そんな進捗度合いでこの本を進められるのは、神さまかネイティブスピーカーレベルの英語話者くらいのものでしょう(あるいは一日5〜6時間くらい英語のハノンだけをやり続けられる暇人か)。

2.発音をちゃんとやろう!

もう一つ、『英語のハノン』に取り掛かる前に絶対に一通り目を通しておいてほしいのがP18〜の「英音法(Unit 0)」です。

ここに書かれてあることを知らないまま『英語のハノン』を始めるのは、その時点でもう本書の効用を半減させることになっていると申し上げて、これは差し支えないと思っています。

リンキング(linking)
同化(assimilation)
フラッピング(flapping)
脱落(elision)

この中の一つでも「なにそれ?聞いたことない」という方は、ぜひ本書の本題に取り掛かる前に、P18〜の「英音法」の箇所をよく読んで、ある程度理解してからトレーニングを始めてください。

トレーニング中も、発音は強く意識するべきです。僕は英文そのものが言えるようになってきたら、今度は発音に集中して練習するようにしていました。理想はどちらもが意識せずにできるようになること。今、本書「初級」の2周目を回しているところですが、当面はここを目標にしようと思っています。

もちろん、発音はやりだすときりがないので(というかノンネイティブの僕が100%の発音になることはありえないので)、ある程度納得がいったら次の『中級』に進むつもりです。

3.ペースは1日一ドリル

Twitterではしばしば、本書の進め方(進める速さ)が話題になっています。そしてどうやら、本書に不満を持つ方に共通しているのが「一日1ユニット」進めてしまうというものです。

1ユニットはある文法項目ごとに構成されている本書の構成単位で、4〜8つの「ドリル」からなります。

1ドリルは、先程申し上げたように5つのセンテンスからなります。そして、これも先程申し上げたように英検一級/TOEIC925点の僕も、一日に進められるのは1ドリルが限界です。

でも、どうやら『英語のハノン』に文句をつけているツイッタラーの方は、この1ドリルを一日に5個も6個も進めているようなんです。

これでは効果が実感できないのは当たり前です。

想像するに、この手の方は「そこに書かれてあることを理解している」ことと「それを実際に口に出して淀みなく言えること」を完全に混同しておられると思います。つまり、本書の目的を理解していないということです。

著者の言葉を借りていうと「受動的知識と能動的知識の差(p12)」が大きいということ。

畳水練で泳げるようになるんなら、誰も溺れたりしません。それと同じで、英文法の問題を解けることと英語が喋れることは全く別の話です。英検一級だからって、英語がペラペラ、というわけでもありません(僕のことです)。

おそらく、この手のクレーマーって、実際に先の「処方箋」を読まずに本書をパラパラとめくって「何だ、大したこと書いてねーじゃん」って判断しているんだと思います。実際にちゃんとやってみたら多分できないはずなのに。

そうじゃなければ=つまり本書を指示通りに進めてクレームを言っているんであれば、その方はかなりの英語上級者→つまりはもう「初級」であるところの本書からは学ぶことのないレベルの英語力の持ち主であるか、シンプルに英語がぜんぜんできない初級以下の人か、どちらかと考えることができそうです。

それならなおのこと「初級」と書かれている本書(の著者)に食って掛かるのは間違っているわけで、それならもっと難しいやつやったらええやん(またはもうちょっと英語できるようになってからハノンやりなはれ)、ってカンジです。いずれにしても、この素晴らしい英語学習参考書がお門違いな批判を受けているように思われて、なんとも悲しい気分になります。

せっかくご縁があって手に取った本なんだから、著者の言うことはちゃんと聞きましょう。そしてご自身の英語力の客観的なアセスメントをしてください。

話はそこからです。

4.1周だけやって終わらせるのはもったいない!

『英語のハノン(初級)』を一日一ドリル進めれば、大体4〜5ヶ月位で一周できるはずです。

で、そこで終わらせるのはあまりにももったいない。なので、是非2周目を回しましょう。僕も今、当にこれをやっている最中です。

2周目を回すことの効用は以下の通りです。

【理由1】自分の英語力の伸びを実感できる

初めての時、閉本で口にするのにあれほど苦労していたドリルが、ほんの数分練習するだけで口にできるようになっている。これはそのまま、あなたの英語力の伸びを示していると判断して差し支えありません。

英語学習で自分の伸びを実感できる瞬間というのはあまり訪れるものではありません。そして英語学習者にとって「英語力の伸びを実感できる瞬間」というのは最高のご馳走なので、ぜひモチベアップのためにも、一回やったところはもう一度繰り返してみてください。

特に「うまくできなかったドリル」「できるようになるために普段より時間がかかったドリル」には印をつけておいて、後からその伸びを実感しやすいようにしておきましょう。

【理由2】一周目では見えなかったところが見えてくる

最初は音を真似ることに精一杯だったのが、2周目になって慣れてくると「アレ、こんな言い回しあるんだ」とか「ここはどうして不定詞じゃなくて動名詞なんだ?」とか、いろいろと新しい「気づき」に出会います。

これは慣れによって脳のリソースが空いて、それまで気づかなかった別のところに意識が向くようになるためです。このこともまた、シンプルに「英語力の伸び」と表現してもいいと思っています。

一回目で気づかなかったことに気づけたということは、それだけ本書から引き出せた学びが多くなったことを意味しています。こういうのは本当に素晴らしいことです。大切にしましょう。

【理由3】多くの参考書は、半年から1年くらいかけて取り組むようにできている(と思う)

最後は持論なんですが、世にある英語の参考書(文法書を除く)はおしなべて、半年から一年くらいの時間をかけてじっくり取り組むように設計されていると思っています。

英語コーチとしてクライエントさんを指導させていただくときも、一度終えた参考書をもう一度キチンと回される方というのは英語の習得において有利です。これは「単調な繰り返し」に耐性があることと関係があると思われますが、「繰り返し」が苦にならない人は、英語力向上のスピードが早い傾向があります。

逆に、新しい刺激を求めて「参考書ホッピング(コロコロ参考書を変える)」をする人というのはいつまでたっても自分のコンフォートゾーンからでられず、万年同じレベルでスタックし続けている印象があります。

ブレイクスルーをもたらしてくれるのは、同じことの飽くなき反復的な練習のみです。

プロ野球選手だって、アマチュアと同じようにキャッチボールや素振りをするでしょう?
あんなものはビギナーのやるものだ!とか言ってキャッチボールや素振りを一切しないプロ野球なんて、多分いません。

これはスポーツでも英語でもそんなに変わらないと思います。

せっかくであった参考書、半年以下で終わっちゃったなら、もう一回回すのが吉と思う理由がここにもあります。

まとめ:コーチングにも取り入れたい、一生付き合える参考書

以上、英語のハノンとの正しいお付き合いの仕方をご紹介してきました。

本書は2周とかなんとかしみったれたことを言わず、できれば一生お付き合いしていきたいとさえ思える、本当に素晴らしい一冊です。英語力向上に必要なすべての要素がギュッと詰まっています。

でもおそらく、ふつーの英語学習者の方はその良さの半分にも気が付かずに適当なところで切り上げちゃうか、途中で投げて別の参考書に移っていってしまうんだろうなということも、英語コーチとしての経験から容易に想像できたりします。

それ、結構もったいないです。

できることなら、本書の意図しているところ、例えばめっちゃ言いにくい英語の発音の連打がさり気なく仕込まれている箇所とか、併用することでより「ハノン」の理解を深めてくれる参考書とか、伴走して一緒にこの本の良さを引き出してくれる人や仲間がいたりすると、この本のいいところをしゃぶりつくせるなぁと思ったりしています。

それってコーチの役割だなぁ、とも。僕自身がまだまだなので、ずっと先になりそうだけど、ぜひ本書を上級まで使いこなせるようになって、後に続く英語学習者さんに効果的な英語力向上のメソッドをご教授したいな、そんな風に願いつつ、今日もお散歩しながら『英語のハノン』を回し続ける毎日です。


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